ロバータ・フラックのアルバム「やさしく歌って」
ロバータ・フラックのアルバム「やさしく歌って」

 今から半世紀前の1973年、ちょうどこの時期に全米ヒットチャートのトップにいたのはソウルシンガー、ロバータ・フラックのバラード「やさしく歌って」だった。かつてネスカフェ(インスタントコーヒー)のテレビコマーシャルで流れていたから、なじみのある人も多いはず。時代を超えて親しまれる名曲だ。

 米ビルボードのシングルチャートで73年2月24日から4週連続して1位になり、1週落ちた後、3月31日にトップに返り咲いた。原題はKilling Me Softly With His Song。直訳すると「彼の歌で優しく私を殺して」か。もちろん文字通りの意味ではなく、「彼の歌」がいかに素晴らしいかを形容する表現だろう。

 この歌で絶賛されている「彼の歌」は実在する。米シンガー・ソングライター、ドン・マクリーンの「エンプティー・チェアーズ」という歌だ。大切な人が去った後の「空っぽの椅子」を歌う。優しい歌声が心に染みるバラードで、71年発表の彼のセカンド・アルバム「アメリカン・パイ」に収録されている。

ドン・マクリーンのアルバム「アメリカン・パイ」

 ロリ・リーバーマンという女性歌手がドン・マクリーンのライブでこの歌に感動し、テーブルにあったナプキンに走り書きした詩を基に生まれたのが「やさしく歌って」(ノーマン・ギンベル作詞、チャールズ・フォックス作曲)。リーバーマンのオリジナルバージョンはヒットしなかったが、ロバータ・フラックにカバーされて歴史に残る歌になった(グラミー賞の最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀女性ボーカリスト賞を受賞)。

 モデルになった「エンプティー・チェアーズ」を収録するドン・マクリーンのアルバムもその前年の72年のちょうどこの時期、7週にわたってナンバーワンに輝いた。アルバムタイトル曲「アメリカン・パイ」は「やさしく歌って」と同様、ポピュラー音楽史上に残る名曲だ。ロックンロール黎明(れいめい)期のスター歌手バディ・ホリーやリッチー・ヴァレンスが亡くなった飛行機事故(59年2月)以降の10年間の思いを切々と歌った8分半に及ぶ大作で、こちらもシングルチャートで7週連続1位の大ヒットとなった。2000年にはマドンナがポップに味付けしたカバーを発表。楽曲の素晴らしさを改めて印象づけた。(洋)
 

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