首相官邸で歓迎行事に臨む韓国の尹錫悦大統領(右)と岸田首相=16日午後4時44分
首相官邸で歓迎行事に臨む韓国の尹錫悦大統領(右)と岸田首相=16日午後4時44分

 二国間の関係を改善・進展させるには両国首脳のリーダーシップが必要だ。ただ、それ以上に、関係改善を支える国民の理解が不可欠となる。

 岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が会談し、首脳同士が相互訪問する「シャトル外交」の2011年以来の再開で合意。安全保障や経済安保の分野でも協力を進める方針で一致した。

 太平洋戦争中に日本企業で強制労働させられた元徴用工への賠償を巡り、韓国政府傘下の財団が肩代わりするという、先に韓国政府が発表した解決策を日本側が評価。18年5月以来、約5年ぶりの日本での首脳会談が実現した。

 ただ、元徴用工問題の解決策に対しては韓国国内にも批判的な声がある。政府がいくら「問題解決」を強調しても、当事者や国民世論の理解が得られなければ真の問題解決にはならない。

 何よりも大切なのは、被害者の気持ちに寄り添った対応だ。日韓関係の安定に向けて、双方が誠意を尽くして課題解決に取り組むよう求めたい。

 岸田首相は共同記者会見で「日韓関係の新たな章を開く機会だ」と強調。尹大統領も「硬直した韓日関係を速やかに回復させる」と応じた。

 今回、首脳会談が実現したのは文在寅(ムンジェイン)前政権時代に「戦後最悪」とまで言われた日韓関係を改善しようという尹大統領の意向が強い。韓国側は今回の元徴用工問題で日本側に賠償を求めないという「譲歩」をした。しかし、尹政権は韓国国会では少数与党であり、足元は決して盤石ではない。

 これに対して日本側は、過去の植民地支配について「痛切な反省と心からのおわび」を表明した1998年の日韓共同宣言の継承を明言したものの、65年の日韓請求権協定で「賠償問題は解決済み」との立場から一歩も踏み出していない。

 韓国が元徴用工への賠償で十分な対応を取れるよう、日本の政府も関係企業も最大限の協力を行うべきだ。

 北東アジア情勢を考えれば日韓の不正常な関係が望ましくないのは言うまでもない。北朝鮮は16日にも米本土を射程に入れるとみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)級ミサイルを発射するなど実績を積み上げている。日米韓3カ国で緊密に連携し、対応する必要がある。

 文前政権は19年に日韓間で軍事上の機密情報を提供しあう軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を通告、その後、当面維持に転じたもののぎくしゃくした関係が続いていた。尹大統領は運用の正常化を図る考えを明言した。北朝鮮のミサイル動向を早期に把握するためには韓国の情報は欠かせない。韓国政権の対応を評価したい。

 ただ、日米韓の連携が北朝鮮や中国への「封じ込め」だけでは逆に地域の緊張を高めかねない。「圧力」だけでなく、その中で対話の道を探る構想を練りたい。

 日本政府はGSOMIA問題の発端となった韓国への半導体関連材料の輸出規制強化措置を解除し、懸案の一つは解消された。だが、このほかにも日韓間には、日本政府が世界文化遺産登録を目指し、韓国側が強制労働を理由に反発する「佐渡島(さど)の金山」の問題もある。15年の日韓合意が白紙化された元従軍慰安婦問題は進展がない。こうした懸案に互いに誠意を持って打開策を探りたい。