「異次元の少子化対策実施」に向け、子育て支援施設を視察する岸田首相(画面中央)。政府は公表した試案を国民的議論のたたき台とする=2月、岡山県奈義町(代表撮影)
「異次元の少子化対策実施」に向け、子育て支援施設を視察する岸田首相(画面中央)。政府は公表した試案を国民的議論のたたき台とする=2月、岡山県奈義町(代表撮影)

 政府は、岸田文雄首相が唱える「異次元の少子化対策」実施に向け、国民的議論のたたき台とする「試案」を公表した。

 これから6、7年が少子化傾向を反転させるラストチャンスと捉え、「若い世代の所得を増やす」など3本柱の基本理念に沿って今後3年間に集中的に取り組む「こども・子育て支援加速化プラン」をまとめた。

 ただ「異次元」と言うより、既存制度を改良、拡充する政策を網羅した「現状の延長線」の印象が強い。それでも、児童手当拡充だけで兆円単位がかかるなど巨額のお金が必要になる。にもかかわらず、財源確保の結論は今夏まで棚上げだ。

 目前の統一地方選、衆参5補欠選挙向けのアピール先行と言われても仕方あるまい。財源の裏付けがなく、政府を縛る閣議決定も経ない試案としたことで、どこまで実現するか政府の本気度に疑念も生じる。選挙後に空手形とならぬよう私たちは目を凝らし続けたい。

 加速化プランは子育てへの経済的支援を最優先し、国際比較で日本が弱いとされる「現金給付」を強化する。中でも予算規模での目玉は児童手当拡充だ。現在は中学生までを養育する親に支給され、高所得世帯は減額や不支給になる。これに対し、所得制限撤廃、高校卒業まで対象拡大、多子世帯加算の拡充を実施するとした。ただ金額など具体策は財源確保と不可分として明示を避けた。

 ほかに出産費用への保険適用検討、自治体による子ども医療費助成への支援、学校給食費無償化への課題整理、授業料や奨学金を通じた高等教育費の負担軽減なども盛り込んだ。子育ての経済的不安解消に手を尽くす姿勢は評価したい。しかし、与党や自治体の要望に応じた「大盤振る舞い」になっていないか。少子化対策としての効果があるか十分精査すべきだ。

 男性の育休取得率は2021年で13・97%。加速化プランは、30年に85%に引き上げると高い目標を掲げた。実現に向けて、雇用保険から支出される育児休業給付などを最大4週間、手取り収入の実質10割まで手厚くする対策を打ち出した。だが雇用保険財政が厳しい中「給付を支える財政基盤を強化する」の意気込みだけでは先行きが不安だ。

 育児休業給付をもらえていないパート労働者も受給できるよう、雇用保険適用拡大を検討する。一方で、自営業やフリーランスへの新たな給付金創設は見送って育児期間中の社会保険料免除などで対応するという。働き方の違いで、子育て支援に大きな差が出ることがないよう、さらに知恵を絞ってほしい。

 これら行政による家計への直接的なてこ入れは重要ではあるが、それだけでは持続的な解決にはなるまい。やはり若いカップルが安定した仕事で手取り収入を増やし、自立的に家族の未来を築けることが望ましい。

 そのため今回の試案は、若者の能力向上支援などに加え「年収の壁」の見直しにも触れている。サラリーマンの配偶者に扶養されるパート従業員が、扶養から外れて社会保険料を負担しなければならなくなる「年収106万円」の壁を超えても就労を抑制しないよう支援策を導入するという。

 壁を本気で解消するには社会保険、税制度の大改革が必要だが、試案に具体論はない。発足した「こども家庭庁」は早速、調整力を問われる。