先進7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合が、気候変動や生物多様性などに関する共同声明を採択して閉幕した。最重要課題の気候変動については「化石燃料使用の段階的廃止を加速する」としたものの、温室効果ガス削減の具体策や数値目標での進展はほとんどなかった。気候危機を招いた大きな責任がある先進国が率先して問題解決に取り組むのだ、とのメッセージを世界に発することはできなかった。
目立ったのは議長国・日本の消極的な姿勢。気候危機対策としてのエネルギー改革で他国に後れを取っている現実が背景にある。今年末の気候変動枠組み条約第28回締約国会議までに、異次元の気候危機対策を打ち出さない限り「対策に後ろ向きな国だ」とのレッテルを貼られかねない。
共同声明は、2050年の温室効果ガス「実質ゼロ」に向けて「排出削減策が取られていない化石燃料使用の段階的廃止を加速する」とした。二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭火力に加え、欧州を含めて需要が根強い天然ガスを対象に加えた。参加国の中には、石炭火力発電の早期全廃を、年限を示して明記するべきだとの意見があったが、日本は消極的で最終的には合意できなかった。
電力部門の脱炭素化を巡っては、G7首脳会議(サミット)が昨年合意した「35年までの完全または大部分の脱炭素化」からの前進が期待されたが、30年代以降も石炭火力を維持する方針の日本が反対し、見送られた。先進国としての責任に基づく世界へのシグナルとしては不十分だと言わざるを得ない。
会期中の15日には、ドイツが稼働中の原発3基を最終的に閉鎖し、脱原発を実現したことが注目を集めた。ドイツは、ロシアのウクライナ侵攻などで深まるエネルギー危機の中、再生可能エネルギーの導入目標を拡大するなど、持続可能なエネルギー需給に向けた取り組みを強化している。
この10年余の間、G7各国は再生可能エネルギーの拡大に取り組み、電力部門からのCO2の排出削減を進めている。だが、日本の対策は遅れ、22年に日本が1キロワット時の電気をつくるために出したCO2の量はG7の中で最も多かった。日本の対策遅れがG7前進の足を引っ張ったと言える。
岸田文雄首相は、気候危機対策としての「GX(グリーントランスフォーメーション)」実現に向け、CO2排出に課金する「カーボンプライシング」の導入を打ち出した。炭素税などのプライシングは多くの国で導入済みの重要な政策だが、日本の導入は28年以降と遅く、企業の自主的な取り組みに任されている。
共同声明は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の結論を引用して、30年までに温室効果ガス排出量を43%、35年には60%削減することの重要性を指摘した。
首相が打ち出した政策には、G7に求められている短期間での大幅削減への効果は少なく、切迫感も気候変動への危機感も感じられない。
首相には、汚名返上のわずかなチャンスが残されている。5月の広島でのG7サミットまでに、日本の気候危機対策を根本から見直し、短期間の大幅削減実現のために、プライシングの強化や脱石炭、脱化石燃料への道筋を明確にすることだ。