森望関電社長(左から2人目)ら電力5社のトップを経産省に呼び、業務改善命令を言い渡す資源エネルギー庁の保坂伸長官(左端)=17日午後
森望関電社長(左から2人目)ら電力5社のトップを経産省に呼び、業務改善命令を言い渡す資源エネルギー庁の保坂伸長官(左端)=17日午後

 経済産業省は、顧客情報の不正閲覧で関西、九州両電力と両社の送配電子会社、中国電力ネットワークの計5社に業務改善命令を出した。経産省の電力・ガス取引監視等委員会は、東北電力や中国電力など6社に業務改善勧告、沖縄電力など2社に業務改善指導した。

 中部、関西、中国、九州の大手電力は互いに営業を縮小して料金の高止まりを狙うカルテルを結んでいたことも発覚。違反を自主申告した関電以外の3社には、過去最高となる総額約1010億円の課徴金納付命令が出された。

 不正閲覧、カルテルはいずれも電力市場自由化を骨抜きにする悪質な行為だ。健全な競争が維持されていれば、企業努力による安い料金で済んでいたはずの消費者や顧客企業の利益が損なわれた。地域独占を許されていた時代の特権意識が抜けていないのではないか。企業体質を抜本的に転換する実効性ある再発防止策が不可欠だ。

 大手7社は家庭向け規制料金の値上げを申請。経産省の有識者専門会合が経営効率化の取り組みなどを調査しているが、不正閲覧やカルテルも踏まえて厳しく審査しなければならない。

 業務改善命令は関係者の厳正な処分も求めている。各社は社内の意思決定プロセス、指示命令系統を点検し、関わった幹部、社員の責任を明確にし、適切に対応しなければならない。最低限でも、法令を軽視する体質を改めなければ、経済社会の基幹インフラである電力事業を営む資格はないのは言うまでもない。

 自由化に逆行する行為に手を染めたのは各社の判断で、当局が厳しく対応するのは当然だが、自由化を推し進めた制度自体に問題がなかったかどうか検証することも考えなければならないだろう。

 2016年に電力小売りが全面自由化された際、大手電力と新電力の競争環境を維持するため、本体から送配電部門を切り離し、子会社とした。子会社が管理する新電力と契約した顧客の氏名、住所、使用電力量などの情報は大手電力が見られないようにしなければならず、子会社と本体の間では情報が遮断されることになっていた。だが、実態は本体側に筒抜けになっていた。

 本体から切り離したとしても送配電子会社は同一グループ内の企業であり、本体の傘下に連なる構造だ。このため子会社には本体の事業に資するような行為に向けた圧力がかかりやすいとの見方もある。

 こうした議論の中で浮上しているのが、本体から完全に切り離す「所有権分離」だ。資本関係が解消されるため、送配電事業を中立的に運営できるという考え方だ。ただ、これには災害時などの緊急時の安定供給に影響が出かねないとの反対論も強い。

 技術的に情報システム遮断を強化するだけで不正閲覧を防止する効果が得られるのか十分に検証する必要がある。さらに、資本関係が解消された場合に、緊急時の安定供給に向けた各社間の協力を円滑に進める体制が可能かどうかも重要な検討課題になるだろう。

 一方で今回の不正閲覧は当局の能力にも疑問符が付いた。電力・ガス取引監視等委員会が不正を見抜けず、関電の発表が契機となり、他の大手の調査に乗り出したからだ。当局側も機能強化に向けた具体策が急務だ。