海底から引き上げられた人の移送作業に当たる自衛隊員。不明者の早期発見と、原因究明の手掛かりとなる機体の早期回収が待たれる=18日、沖縄県宮古島市の空自宮古島分屯基地
海底から引き上げられた人の移送作業に当たる自衛隊員。不明者の早期発見と、原因究明の手掛かりとなる機体の早期回収が待たれる=18日、沖縄県宮古島市の空自宮古島分屯基地

 陸上自衛隊機としては、史上最悪クラスの事故になってしまった。防衛省・自衛隊は犠牲になった命を決して無駄にしてはならず、再発防止と安全確保の徹底に生かさねばならない。

 沖縄県・宮古島を離陸後に消息を絶った隊員10人搭乗の陸自ヘリ「UH60JA」の胴体部分が、同島近くの海底で発見された。付近で半数を超す人が見つかり、死亡確認が相次いだ。残る行方不明者の捜索も続いている。

 1968年に愛媛県内で陸自ヘリが墜落、乗員8人が死亡した過去最大の事故を上回る規模の惨事だ。犠牲者を悼むとともに、不明者の早期発見を祈りたい。

 現時点で事故原因は明確になっていないが、当時の状況などから、突然の緊急事態に襲われ、墜落したとみられている。目撃者などはなく、水深約106メートルの海底にある機体が原因究明の最大の手掛かりだ。

 陸自はサルベージ会社などに依頼して、機体を引き揚げる準備を進めている。早期の回収を実現してもらいたい。

 事故は4月6日午後、発生した。ヘリは航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸、予定通り島の沿岸部を反時計回りに飛行したが、約10分後に機影がレーダーから消失した。その約2分前には管制塔と通常の交信をしていた。

 海底から機体が発見されたのは、機影が消えた地点の北約4キロで、飛行してきたルートを戻る形になっていた。機体が潮流などで流されたとは考えにくく、機影消失の直後に墜落したとみられていたものが、実際はレーダーが探知できない低空をしばらく飛行していたと推定せざるを得ない。

 何らかの緊急事態に襲われた操縦士は、コントロールを失った機体を必死に立て直そうとして、あたりをさまようように飛んだのだろう。緊急通報をする余裕すらなかったことは、想像に難くない。

 当時の天候に問題はなく、視界も10キロ以上あった。機長の総飛行時間は約3千時間、副操縦士が約500時間と飛行経験にも懸念はない。

 同型ヘリの耐用飛行時間は約6千時間だが、事故機の飛行時間は約2600時間。3月下旬に「特別点検」を受けたばかりだった。緊急事態につながりそうな状況は、見当たらない。

 機体の高度や速度、姿勢、操縦席の会話などを記録したフライトレコーダー(飛行記録装置)は、事故機の機内に内蔵されている。機体引き揚げには、時間がかかることも予想される。先行してレコーダーの回収を検討すべきだ。

 南西諸島の防衛力を強化する政府の「南西シフト」は今後も続くだろう。国民、地元住民の「理解と安心」が不可欠であり、迅速な原因究明と再発防止が最優先だ。

 その意味で事故から機体発見まで、1週間も要してしまったことの検証も求めたい。特に装備に問題がなかったのかを追究してもらいたい。

 例えば、機体が強い衝撃を受けると自動的に位置情報を発信する航空機用救命無線機だ。事故機も装備していたが、信号は受信されなかった。作動しなかったとすればなぜなのか。事故後速やかに機体の位置が特定できていれば、生存者を救助できていたかもしれないし、多数の行方不明者を出さずに済んだかもしれない。残念でならない。