ドメスティック・バイオレンス(DV)防止法改正案を可決した参院本会議=7日午後
ドメスティック・バイオレンス(DV)防止法改正案を可決した参院本会議=7日午後

 ドメスティック・バイオレンス(DV)防止法改正案が参院を通過し、衆院の審議を経て今国会で成立する見通しだ。現行法で加害者に対し被害者への接近などを禁止する保護命令の対象となるのは殴る蹴るといった身体的DVに限られるが、これを言葉や態度で相手を追い詰める精神的DVにまで広げ、禁止期間を半年から1年に延ばす。

 命令に違反した場合の罰則も「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」にする。相手を長時間にわたり正座させて説教したり、行動や交友関係を監視・制限したりするなど近年、多様化するDVを巡り対応を強化する狙いがある。

 しかし課題は尽きない。全国の配偶者暴力相談支援センターなどに寄せられるDV相談は増えているのに、被害者の申し立てに基づき裁判所から出される保護命令が減り続けているのも、その一つだ。一刻も早く身の安全を確保したい被害者にとっては、申し立てから発令までに2週間程度かかる手続きがネックになっているとみられる。

 また被害者が加害者と一緒にいる住居から逃げることを前提に一時保護と保護命令により安全を図るDV防止法の枠組みに疑問を呈し、「逃げない」という選択肢を求める声も根強い。今回の法改正を機に加害者更生の仕組みも含め、制度見直しを加速させるべきだ。

 内閣府によると、相談支援センターや24時間態勢の相談窓口事業で対応したDV相談は2020年度に前年度比1・5倍の18万2千件余りに急増。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、政府が20年4月に初めて緊急事態宣言を発令し、夫婦ともに自宅にいる時間が長くなったことが背景にある。

 21年度も約17万7千件で、毎月1万4千~1万6千件と高止まり。今年1月に内閣府が公表した調査報告書では、相談窓口事業で21年度後期に精神的DVに関する相談が全体の6割を超えた。

 改正内容がそうした状況を踏まえた点は評価できるが、懸念も残る。全国の裁判所が21年に出した保護命令は1335件。DV防止法が施行された01年からの増加傾向に対し、14年の2528件をピークに減少が続く。手続きに時間がかかり、被害者のニーズに合っていないとみるべきだ。弁護士や民間団体が多い大都市圏と地方で支援の差が広がりかねない。

 緊急時には即日、保護命令を発令する制度も提案されており、検討を急ぐ必要があるだろう。

 また改正案では、加害者に対し住居から退去するよう命じる期間は、被害者が住居の所有権や賃借権を持っている場合、従来の2カ月から6カ月に延長される。だが被害者の大半を占める女性で、そのような条件を満たす人は極めて少ないとみられ、実態にそぐわないとの批判も出ている。

 そもそも都道府県や民間のシェルターに避難し、ステップハウスで自立支援を受けるといったように、DVから逃げ続けるのは生活や仕事への影響が大きく、被害者が制度利用をためらう一因になっているとされる。

 加害者が更生プログラムに参加し、過去の暴力や暴言を反省し被害者とともに元の生活を取り戻した例もあり、それを制度化につなげることも含め、知恵を絞りたい。