神奈川県横須賀市が業務に試験導入した「チャットGPT」を利用する広報課職員=20日午後、横須賀市役所
神奈川県横須賀市が業務に試験導入した「チャットGPT」を利用する広報課職員=20日午後、横須賀市役所

 人間の問いかけや求めに応じて、文章や画像を作成する対話型人工知能(AI)が急速に普及し始めた。米新興企業が開発した「チャットGPT」は昨年11月に公開され、利用者は1億人を超えた。

 インターネット空間の膨大なデータを独自の手順で処理し、創造的な能力を持つ「生成AI」が登場し、アマゾン、グーグル、マイクロソフトといった巨大IT企業が普及に乗り出している。

 情報技術(IT)の進化を実感させる技術だが、偽情報の流布、著作権の侵害、個人情報の無断利用など深刻な懸念も付きまとう。各国・地域の政府やIT産業はAIの開発と利用の規律を確立する時を迎えている。

 対話型をはじめとする生成AIの活用分野は幅広い。産業界では、業務効率化やコスト削減に役立つと期待され、国内ではメガバンクや証券会社が導入を決めている。パナソニックも傘下企業がつくった対話型AIをグループで利用するという。

 一方、学術分野では警戒が強い。AIが作成した論文が横行し、盗用が広がりかねないからだ。他人の研究データを無断で取り込み、研究不正の新たな温床になる恐れがある。これを防ぐため、投稿された論文にAIをどう利用したか明記することを求める科学誌も現れている。

 芸術家たちの不安も大きい。AIによって絵画や音楽が無断で使われれば、画家や作曲家の権利は侵害される。敵対する国の選挙や安全保障を混乱させる精巧な偽情報が、これまでにない速度で大量に作成され、流布するかもしれない。

 いったん生まれた技術の普及を止めるのは難しい。利便性が高く、誰でも使えるとなればなおさらだ。イタリアはチャットGPTの使用を一時禁止したが、利用に歯止めをかけることはできないだろう。

 生成AIが引き起こす不正や混乱を防止する方法を早急に見つけねばならない。やるべきことははっきりしている。一つは利用ルールの確立であり、もう一つは開発企業への規律導入と検証だ。

 AIを活用する企業や行政機関は、顧客、住民らの個人情報や非公開の機密などをAIに取り込まれてはならない。秘密の情報をAIがのみ込むのをはねつけるシステムを、利用者自身が設定する仕組みが必要だ。

 小中学校の教育現場でチャットGPTによる作文や論文作成を制限する必要がある。子どもたちが読解力と表現力を身に付けなければ将来、AIを使いこなすことができなくなる。高校や大学でも学生の学力低下を防ぐ工夫を考えるべきだ。

 開発者側に規律を導入することはさらに重要だ。AI開発企業の間でも、有害コンテンツや偽情報拡散などのリスクを認め、システムを改善する動きがある。しかしシステムの中身を検証する枠組みはまだできていない。国際的に共通化されたルールに基づき、多くのAIの中から問題のあるシステムを洗い出す。そのためには企業の自主規制だけでなく、公的機関による検証がなければ、効果は上がらない。

 AIがもたらす成長の果実は確かに大きい。それをむさぼろうとするあまり、社会の秩序や安全が損なわれるのを座視するわけにはいかない。AIを議題にする先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、指導者たちの覚悟を試す場になる。