衆参5補選の結果などについて取材に応じる岸田文雄首相=24日午前、首相官邸
衆参5補選の結果などについて取材に応じる岸田文雄首相=24日午前、首相官邸

 衆院と参院の5補欠選挙は自民党の4勝1敗という結果だった。野党を抑えた形にはなったが、接戦が目立ち、投票率は低迷した。有権者が下した判断は、岸田文雄首相(自民党総裁)の政権運営への信任に直結するとは言えまい。首相には民意と謙虚に向き合う姿勢が求められる。

 補選は衆院の千葉5区、和歌山1区、山口2、4区と参院大分選挙区で行われた。いずれも自民と立憲民主党や日本維新の会などの候補による与野党対決の構図となった。自民が補選前に議席を持っていたのは、千葉5区と山口2、4区の3選挙区。公明党の推薦を受けた自民候補が和歌山を除いて勝利し、1議席増を果たした。

 岸田首相は与党が掲げた政策が評価されたとの認識を示し、「国民の声を踏まえ、政治を力強く進めていきたい」と述べた。だが首相の受け止めには首をかしげざるを得ない。

 和歌山の補選は、野党系議員の知事転身によるもので、自民は総力を挙げて議席奪還を目指した。保守地盤とされ、元議員の自民候補は知事の支持も取り付けたが、維新の候補に及ばなかった。

 維新は、防衛力の抜本的強化を図る首相の増税方針や、少子化対策の財源として政権内に浮上している社会保険料上乗せ案に反対を表明。行財政面での「身を切る改革」を優先すべきだと訴えた。統一地方選での躍進に続く維新の議席獲得は、増税などに対する有権者の反発を示しているとみていい。

 千葉の補選は、自民候補に立民候補が競り負けたが、最大の要因は野党候補の乱立による政権批判票の分散だ。立民候補に他候補の票を加えれば、自民候補をはるかに上回っていた。

 自民に所属していた議員の「政治とカネ」問題による辞職を受けた補選で、激戦になった背景に有権者の根強い政治不信があったことは間違いない。国民に負担を強いる政策を推し進めるなら、政治への信頼が土台になると首相は肝に銘ずるべきだ。

 山口は、2区が岸信夫前防衛相の体調不良による辞職、4区が安倍晋三元首相の死去を受けた補選だった。両区では後継の自民候補が当選したものの、2区では肉薄を許した。その意味するところを岸田首相は熟慮し、独善的な政策決定を排するよう重ねて求めたい。

 参院大分選挙区でも、自民候補は辛勝だった。野党の支持基盤が厚い地域とはいえ、県全体からの集票で僅差だったことは、岸田政治への不満の表れでもあろう。

 一方で、野党第1党でありながら候補を立てた選挙区で全敗した立民は、選挙結果を深刻に捉えなくてはならない。

 特に野党共闘で臨んだ大分の敗北については真摯(しんし)な反省が必要だが、泉健太代表ら執行部の責任論を封じるような発言が出るのはいかがなものか。立民も民意の在りようを探り、今後の政策や国会、選挙対策に生かさなくてはなるまい。

 退潮傾向にある立民に対し、維新は存在感を増すばかりだ。だが、同時に国民の代表としての役割が大きくなることを自覚し、岸田政権と対峙(たいじ)してもらいたい。

 補選の投票率は全選挙区で30~40%台にとどまった。民主主義にとって危機的状況であり、投票率向上は与野党が一致して取り組むべき課題だ。