決算説明会に出席したトヨタ自動車の佐藤恒治社長(中央)ら=10日午後、東京都中央区
決算説明会に出席したトヨタ自動車の佐藤恒治社長(中央)ら=10日午後、東京都中央区

 資源高と円安が日本企業に変革の好機をもたらしている。ピークを迎えた2023年3月期決算の発表は、トヨタ自動車を筆頭に、高水準の利益をたたき出す企業が続出。原材料の値上がり分の価格転嫁も進んだ。

 いま必要なのは脱炭素や、サプライチェーン(供給網)を再編するための投資だ。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに世界の分断は深まり、半導体など戦略物資の国内生産拡大、民主主義陣営によるエネルギーや希少金属の確保が欠かせない。好業績に安住せず、変革への投資を急ぐことが経営者の使命だ。

 トヨタの連結決算は、円安による利益押し上げが、原材料の値上がりによるマイナスをほぼ打ち消した。本業のもうけを示す営業利益は24年3月期に初めて3兆円に達し、国内の製造業では空前の規模に膨らむ見込みだ。

 トヨタは世界各地の市場の特徴に合わせた商品開発が功を奏した。半導体不足の解消が進めば、工場の稼働率は一層高まるだろう。今後も部品メーカーに価格転嫁を認め、供給網全体に利益を広げる工夫が必要だ。

 日本製鉄は原材料高を受け、自動車など大口顧客向けの製品価格を引き上げた。老朽設備の削減を進めており、7千億円近い純利益を確保した。鉄鋼をはじめとする素材産業も温暖化対策の重圧にさらされている。同社は二酸化炭素(CO2)を大量に排出する高炉から、電炉への一部転換の検討も表明。脱炭素投資を加速する方向を鮮明にした。スピード感ある戦略は経営の強い意思があってこそだ。

 一方、資源ビジネスの最前線を担う大手商社7社のうち、6社の純利益が過去最高となり、三菱商事と三井物産は初めて1兆円の大台に乗せた。ロシアからのエネルギー調達が難しくなったことで国際的な資源市況が上昇。石油、天然ガス、希少金属など海外の権益が大きな利益を生んだ。

 資源価格は浮き沈みが激しい。いまの利益は過去の投資が実を結んだものであり、現経営陣がけた外れの報酬を得ていいわけではない。常識や節度を忘れてはならない。

 日本経済が再び成長力を取り戻すには、持続的な賃上げの重要性は言うまでもない。外国投資家や「物言う株主」に押され、株主への利益還元や自社株買いによる株価引き上げを最優先する経営者はさすがに減ってきた。

 円安や資源高のメリットは輸出産業や商社に集中する。その半面、中小企業や消費者には、資材や生活必需品の値上げという形で負担をもたらしている。

 安倍晋三元首相は富裕層や大企業から家計に利益がしたたり落ちる「トリクルダウン」を訴えたが、実現したとは言えない。大企業に偏在する利益を、社会全体に行き渡らせるには何が必要か、真剣に考えねばならない。

 「人への投資」である賃上げを続けたり、下請け企業に価格転嫁を認めたりするのは当然だ。温暖化対策、デジタル技術、経済安全保障を考慮した生産移転など、企業が直面する課題は多い。

 リスクをいたずらに恐れず、ライバルの先を行く技術開発や生産効率化に投資することが、次の業績拡大を引き寄せ、下請け企業にも利益をもたらす。次世代への投資こそ、企業の活力を高め、日本経済を活性化する決め手だと信じたい。