ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、核軍縮の後退、米国と中国の覇権争い…。「歴史の転換点」で迎える先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)があす開幕する。分断と対立を抑えて、協調と共生の世界地図を描くことができるのか。G7の存在意義が試される。
今回サミットの政治テーマの大きな論点は、ロシアと中国という大国への向き合い方だ。ウクライナ問題では、法の支配に基づく国際秩序へのロシアの暴挙を認めないと強い決意を示し、ウクライナとの連帯を繰り返し発信することが重要だ。同時に、市民も巻き込む戦争を一刻も早く止める外交の知恵を絞ってもらいたい。
一方で、この間G7が結束するだけでは、事態が好転しない限界も露呈した。中ロ両国と軍事的、経済的な関係の深いグローバルサウスと呼ばれるインドやインドネシア、トルコなど新興・途上国の協力が欠かせない。「民主主義陣営」対「専制主義陣営」の構図に組み入れる発想ではなく、力による一方的な現状変更の試みに反対するという、どの国も許容しやすい「価値観」を、G7それぞれが説いていく努力が肝要だ。
日本外交が柱に据える「自由で開かれたインド太平洋」構想も、中国包囲網と受け取られないよう丁寧な説明が求められている。
その意味で、インドやブラジル、アフリカ連合(AU)議長国のコモロ、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のインドネシアなどを招待し、G7との討議に多くの時間を割くのは評価できる。貴重な対話の場を生かしたい。
中国を巡っては、4月に訪中したフランスのマクロン大統領が対中政策で欧州は米国に追随する必要はないとの見解を示して波紋を広げた。それだけに、過去のサミット、先の外相会合でも確認したように、一方的な現状変更に毅然(きぜん)と異を唱え「台湾海峡の平和と安定の重要性」「両岸問題の平和的解決」の原則を、マクロン氏も含めてG7で共有する機会となろう。
その上で、ウクライナ侵攻や北朝鮮の核・ミサイル問題、環境など人類共通の課題の解決、世界経済のリスク回避には中国の関与は不可欠となっている。大国として責任ある行動を促すためにも、対話を重ねていくことが必要だ。
被爆地・ヒロシマで開催する意義もかみしめたい。核の威嚇を振りかざすロシア、透明性を欠く核戦力の増強を図る中国と、核軍縮の機運が急速にしぼんでいる。その現実を踏まえ、核保有国を含む、G7や招待国の首脳に被爆の実相に触れてもらい、「核なき世界」を中ロを巻き込みながら目指す、その仕切り直しにすべきだ。
気候変動への取り組みでは、先日の環境相会合で、石炭火力発電の温存をもくろむ日本と、脱炭素化目標の強化に積極的な欧米の温度差が鮮明になっただけに、G7の足並みをそろえてもらいたい。対話型人工知能(AI)「チャットGPT」などへの対応で、差別や偏見、偽情報による分断を拡大させないよう、国際的な基準づくりへ論議を深めることも重要だ。
岸田文雄首相は「歴史に残るサミット」と意気込む。ならば外交イベントに終わらせず、包摂の国際社会の構築へ、言葉を並べるだけでなく、実効性の伴う具体的な行動に踏み出す。それが議長の使命である。