首相官邸で開かれた、物価問題に関する関係閣僚会議=16日午前
首相官邸で開かれた、物価問題に関する関係閣僚会議=16日午前

 中国電力など電力7社による電気料金の値上げを、政府が了承した。電力販売のカルテルや新電力の顧客情報の不正閲覧問題が発覚した中で、値上げが事実上認められたことに釈然としない思いが残る。

 当初の計画より値上げ幅は圧縮され、業務改善計画を経済産業相に提出した会社もある。値上げを認めるからには、不祥事の背景にある発送電分離や電力市場改革が十分に検証されなければならない。

 経産省主導で始まった電力システムの改革は約10年にわたって続いている。ガス、石油元売り、商社など異業種が電力小売りに参入し、大手電力も分社化された。電力販売に競争が巻き起こった。電力各社も経営の効率性を高め、対応してきたはずだった。だが、一連の不祥事は規制業種の体質から転換できずに、企業統治も不十分なまま競争をゆがめてきた大手電力の姿をあぶり出した。

 ウクライナに攻め込んだロシアへの制裁によって資源価格は急騰した。電力各社の経営は苦境にある。大手10社の2023年3月期決算は中国電力を含む8社が赤字に陥った。燃料価格の上昇を電気料金に転嫁するのはやむを得ない面がある。

 電力供給を担う電力大手の経営が赤字では困る。電力需要を確実に満たすには、発電能力にある程度の余裕を持たねばならない。赤字脱却のため、過度な設備リストラに走れば、電力供給の安定が損なわれかねない。

 今回値上げするのは中国電力のほか、北海道、東北、東京、北陸、四国、沖縄電力の7社。6月から実施される。政府は各社の燃料費、人件費、設備費などをもとに、標準的な家庭の電気料金の値上げ率を14~42%と査定した。決して小さな幅ではない。中部、関西、九州電力の3社は値上げを見送った。

 国際的な資源価格の上昇や円安による物価高に苦しむ家庭や中小企業は多い。電力の値上げはさらに追い打ちをかける形になる。電力会社にとって資源価格の急騰は、対応が難しかったのは確かだ。だが暮らしに欠かせない電気代の値上げは、家計の大きな負担になる。

 電力会社は自分たちが社会を支える産業であることを、あらためて自覚しなければならない。電力大手が本来的に担っている公益性は、電力市場が自由化されたからといって、変わるところはないはずだ。その根幹は電力の安定供給だ。

 赤字が続き、設備更新や新たな電源の確保が滞れば、安定供給に支障が生じかねない。それを防ぐためのやむを得ない値上げであることを、消費者や企業に納得してもらう必要がある。電力各社の公正さや透明性が問われている。

 政府は1月の使用分から9カ月間、電気料金の水準を補助金で抑えている。値上げによって料金抑制の効果は薄らぐ。エネルギー情勢が大きく好転する見込みはないが、巨額の補助金をいつまでも出し続けるわけにもいかないだろう。

 夏の電力需要期を迎える前に節電や省エネを呼び掛け、電力需要を抑えるべきだ。エアコンによる電気の消費量が大きい企業のオフィスなどは節電余地があるはずだ。

 電力市場改革によって各社は余剰設備を削減してきた。電力需要は変動が大きい。予期せぬ停電を防ぐためにも、日常の暮らしや仕事の中での節電に努めたい。