平和、非核の象徴都市である広島で初めて開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、戦火のさなかにあるウクライナに公正、永続的な平和をもたらす「あらゆる努力を行う」と誓う声明を発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領も広島を訪れ、サミットで支援を要請する方向だ。
開始以来1年3カ月となったウクライナ戦争はロシアによる乱暴な国際法違反であり、非人道的な戦争行為が次々と明らかになった。プーチン・ロシア大統領は広島の願いを踏みにじるかのように核兵器使用の威嚇までしている。指導的立場を自任するG7が厳しい対ロシア制裁とウクライナ支援で結束するのは当然である。
だが恒久平和を訴える広島でのサミットだけに、「西側の結束」だけで終わってしまっては残念だ。戦争終結による平和の実現とともに、多くの戦争の背景にあるゼロサムゲーム型の対立や国連の機能不全など国際秩序のゆがみ解消に、G7は取り組んでほしい。
まずはウクライナ支援の輪を広げたい。プーチン氏は国際社会で孤立していないと主張し、戦争を長期的に継続する意図を強調している。
G7はインドやブラジルなどグローバルサウスと称される新興・途上国を招待した。100カ国以上とも言われるこれらの国々は対ロシア制裁に加わらないだけでなく、ロシアと軍事関係を維持する国もある。G7では制裁の抜け穴封じが議題となったが、これらの国が抜け穴を提供している。
グローバルサウスの国々は人口、経済ともに拡大している。G7がこうした国々も受け入れやすい「法の支配」を根拠にロシア非難を打ち出したのは評価できる。ゼレンスキー氏の出席もこうした国々からの支持取り付けの狙いがあろう。
ウクライナ戦争終結の見通しは立たない。ウクライナが本格的な反転攻勢に踏み切るとみられるが、ロシアの全面撤退は難しそうだ。プーチン氏は国際社会が戦争に飽きて支援に消極的になると見越しているようだ。
G7はウクライナ支援を長期に継続する粘り強さが求められる。早期決着を期待するあまりに、支援疲れが生じる事態は避けたい。「ウクライナは明日の東アジア」と身構える日本がどのように支援を強化していくかも問われる。
サミットは対ロシア制裁の厳格化も打ち出した。原油制裁でロシア財政は悪化しているものの、軍事転用可能な物品をロシアは大量に輸入している。これでは戦費を枯渇させ、市民の厭(えん)戦(せん)感を高めることはできない。戦争遂行能力を損なう制裁の知恵が求められる。
制裁の長期化でエネルギー価格の変動や穀物不足など戦争の影響を受ける途上国の支援も今後強化していく必要がある。
サミットに合わせるかのように中国の特別代表が欧州やウクライナを訪れて和平交渉のきっかけを探っている。中国の和平案はロシアに撤退を求めないなど欠陥がある。だが、戦争の余波に苦しむ国々は中国の動きを歓迎する傾向にある。
G7のロシア非難は当然だが、「西側」対「権威主義」といった国際社会の対立が続けば世界の危機は深まる一方だ。原爆資料館を訪れ被爆の現実を知ったG7首脳は、戦争を防ぐ手だては協調による国際秩序にあることを学んでほしい。