法案を協議した自民党の政調審議会=16日午前、東京・永田町
法案を協議した自民党の政調審議会=16日午前、東京・永田町

 LGBTなど性的少数者に対する理解を広めていこうと2年前、超党派の議員連盟で与野党が合意した「LGBT理解増進法案」について、自民党は党内保守派の主張に配慮した修正案をまとめ、公明党との与党政策責任者会議で了承された。19日から開催される先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)前に国会へ提出する方針だ。

 修正案は、超党派の法案で目的や基本理念に出てくる「差別は許されない」という表現を「不当な差別はあってはならない」に変更。法案名や条文などにいくつもある「性自認」を全て「性同一性」に置き換えた。野党や支援団体などは「超党派の合意から後退している」と反発している。

 自民党は「法案の趣旨は全く変わらない」としているが、いずれの修正についても理由を明らかにしていない。「不当な差別」という言葉によって差別の範囲を狭めてしまうことになりかねないとの懸念がある。丁寧に説明を尽くすべきだが、G7サミットまでに法案提出にこぎ着け、議長国としてメンツを保つことしか頭にない。

 そのため党内をまとめることを最優先して「伝統的家族観」を重視する保守派の主張に引きずられ、修正を重ねた。いびつな修正案と言うほかなく、超党派の法案を骨抜きにしたとの批判は免れない。これで差別解消につなげることができるのか、疑問を拭えない。

 立憲民主党など野党は2018年12月、行政機関や企業に性的少数者への差別的対応を禁じる法案を国会に提出した。自民党は21年4月に特命委員会で、性的指向などの多様性に寛容な社会を目指すとする法案要綱をまとめ、超党派議員連盟で野党と協議。翌月に理解増進法案に「差別は許されない」との表現を追加する修正で合意した。

 保守派から異論が噴出し国会提出は見送られたが、今年2月に岸田文雄首相の秘書官が性的少数者への差別発言で更迭され、内外で法整備を後押しする声が高まった。

 そんな中、保守派は「差別は許されない」との表現に「訴訟が乱発される」とかみついた。「不当な差別はあってはならない」に変えた理由について説明はない。差別に不当も正当もないはずだが、不当の2文字を冠することで、通常とは異なる対応をしても、差別には当たらないことがあると言いたいのだろう。

 さらに事実上の禁止規定と受け取られ、訴訟の根拠にされないよう「許されない」との文言も避けたとみられている。

 「性自認」を巡っては、保守派が「自認する性で権利を認めれば、トイレや風呂でトラブルが起きる」と主張。元々の法案要綱にあった「性同一性」に戻した。また学校が理解増進に努めるとする「学校の設置者の努力」も「事業主等の努力」に含める形に変えた。

 日本はG7の中で唯一、性的指向や性自認を理由とする差別を禁じる法令がない。今月、米欧やオーストラリアなど15の在日外国公館はビデオメッセージで、性的少数者の差別反対と権利擁護の法整備を日本政府に呼びかけた。しかし岸田首相は法案提出を急ぐよう指示したが、あとは自民党に任せきりで指導力を発揮することはなかった。

 差別禁止や同性婚の法制化など差別解消へ課題は山積しており、トップとして決意と覚悟を示すことが求められよう。