講演する村上信夫氏=浜田市殿町、浜田ニューキャッスルホテル
講演する村上信夫氏=浜田市殿町、浜田ニューキャッスルホテル

嬉しいことばが自分を変える
声に出して明るい未来に

 山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が6、7日、浜田、益田各市であり、元NHKエグゼクティブアナウンサーの村上信夫氏(69)が「嬉(うれ)しいことばが自分を変える」と題して講演した。日頃から自分に言い聞かせるように前向きな言葉を口にすることで、明るい未来につながると力説した。要旨は以下の通り。

 言葉は人間のみが扱える道具だ。しかし、「こんなこと言わなきゃよかった」「どうして通じないのだろう」と悩みは尽きない。当たり前に存在する言葉を深く考えず、いいかげんに使う人が多いからだろう。

 亡くなった母は反面教師だった。潔癖性で、買い物から帰ると「そこに置いたら駄目。汚い」。晩年は体の不調で「痛い」「つらい」「しんどい」と何度も聞かされた。まさに、「嬉しくないことば」の達人だった。この経験が「嬉しいことば」の大切さを気付かせてくれた。

 世の中は理不尽なことが多く、マイナスなことを言いがちだ。そんな社会だからこそ「嬉しいことば」を自分にかけてほしい。心で思うのではなく、実際に口にしないと脳には届かない。何度も言い聞かせることで脳内に広がって、活力が生まれる。良くも悪くも発した言葉が未来をつくる。

 例として「ありがとう」「おかげさま」「いただきます」「大丈夫」がある。近年「おかげさま」と「いただきます」を日常生活で使う人が少なく、今後消えるのではないかと心配している。

 言葉の意味を知る人も減った。本来「かげ」はご先祖様を指し、命のバトンが受け継がれ、生きることを自覚する言葉。「いただきます」はいろいろな生命をいただくことに感謝する意味だ。

 今では学校の給食で「金を払っているから言う必要がない」という保護者の意見があるほど軽んじられている。大人が子どもに適切に言葉を教えられないと、一層使われなくなるだろう。

 「痛い」とわめく母に反発した際、自分の心が傷ついた。今思えば「しんどいよね」と返したらよかった。「聴」の訓読みは「ゆるす」。言葉で傷つくこともあるが、時には受け止め、向き合ってほしい。

(宮廻裕樹)