初めて見る「田園絵巻」は華やかな盛り上がりの裏で、多くの住民によって支えられていた▼島根県邑南町などに隣接する山あいの広島県北広島町で先週、国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録された農耕行事「壬生(みぶ)の花田植(はなたうえ)」があった。新型コロナウイルス禍も落ち着き、4年ぶりの公開。主催者発表で約6千人が駆け付けた。近くで暮らす息子に届け物があり、興味本位でのぞいた▼旧千代田町壬生地区に伝わる花田植は、豊作を願って毎年6月の第1日曜に行う民俗行事。地元の田楽団員ら69人が登場。太鼓をたたき、笛を鳴らすのに合わせ、横一列に並んだ早乙女たちが田植え唄を歌いながら苗を植えた。初めて見たのになぜか懐かしさを覚えた▼目玉の一つが金の刺しゅう入りの布をまとい、くらを載せた12頭の飾り牛。水田に入り、代かきをするのだが、その前に商店街を練り歩く。すると地元のボランティアスタッフが一緒に歩いていた。聞くと、牛のふんを取り除く役目という。商店街の軒先には、清掃用に水を入れたバケツも出されていた。小さな気配りが伝統行事を支えている▼コロナ禍も落ち着き、山陰でも伝統行事やスポーツ大会などが再開されてきた。この間のブランクによるボランティアの減少や経験不足を危惧する声も聞こえてくる。だが、力む必要はない。小さな気配りの積み重ねが、伝統を紡いでいく。(健)