旧優生保護法の下で障害者らが不妊手術を強いられた「戦後最悪の人権侵害」を巡り、衆参両院議長に国会の調査報告書が提出された。国は本人の意に反し身体拘束をしたり、だましたりすることも許されると自治体に手術実績を積み増すよう繰り返し働きかけたとされ、全国で計約2万5千人が「子どもを産み育てる権利」を奪われた。
調査は旧法の立法経緯や被害の実態を把握する目的で3年前に始まり、両院の事務局が国や自治体、医療機関、福祉施設に保管されていた手術記録などの資料を分析したほか、被害者らのアンケートも実施。非人道的な国策がもたらした被害の理不尽さと深刻さが改めて浮き彫りになった。
不妊手術のピークは旧法の施行から7年後の1955年。手術時には多くが10代だった被害者は高齢化し、残された時間は限られている。被害者に一律320万円の一時金を支給する救済法が2019年4月に議員立法で成立、即日施行されたが、とても被害に見合う額とは言えず、各地で国に損害賠償を求める訴訟の提起が続いている。
調査も含め、救済に向けた国の動きはあまりにも鈍い。旧法を1996年まで存続させ、重大な被害を拡大させた責任と正面から向き合うべきだ。訴訟で争うよりも救済に本腰を入れ、全国被害弁護団の協力も得て一刻も早く補償拡充に道筋をつけることが求められよう。
報告書によると、旧法は戦後の食糧難を背景に人口抑制策として議員立法により成立。「不良な子孫の出生防止」を目的に掲げ、障害などを理由に本人の同意がなくても不妊手術をできると定めていた。立法経緯については「批判的な観点から議論がなされた形跡はなかった」としている。
自治体への通知で旧厚生省は54年12月、強制手術の件数が予定を下回っているとし、57年4月にも予算確保時の想定より件数が少ないと指摘。計画通りの実施を促し、手術は計2万4993件に上り、このうち本人の同意なしは1万6475件で65%余りを占めた。
旧厚生省の通知には「相手をだますことも許される場合がある」「憲法の(人権)保障を裏切るとは言えない」という趣旨の記述も見られる。国立ハンセン病療養所は「結婚の条件として手術が行われた」と答えた。
また「国民全体の遺伝素質を改善・向上させるために国民優生に力を注いでいる」と75年の高校教科書に記され、そんな中で被害者が声を上げるのは困難だったろう。
2018年1月、仙台地裁に国に損害賠償を求める訴訟が初めて起こされて被害が注目されるようになり、12地裁・支部に提訴が相次いだ。不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用するかどうかが主な争点で、これまでに旧法を違憲とした上で除斥期間を適用せず、国に賠償を命じた判決は地裁で3件、高裁では4件を数え、賠償額は1人1500万円前後。一時金とは大きな開きがある。
国は旧法の違憲性を認めようとせず、除斥期間の適用にこだわって控訴と上告を繰り返している。地裁7件、高裁2件の判決は国の主張を認めたが、なお補償拡充に手をこまねいているのは不誠実と言わざるを得ない。「生きているうちに解決を」という悲痛な訴えに応えるため、手を尽くす必要がある。













