通常国会閉幕を受けた記者会見を終える岸田首相=6月21日、首相官邸(代表撮影)
通常国会閉幕を受けた記者会見を終える岸田首相=6月21日、首相官邸(代表撮影)

 通常国会が閉会して1カ月。国民の「命と暮らし」に関わる重要課題が山積しているというのに、再開は10月に入ってからだという。岸田文雄首相は臨時国会の早期召集による審議の徹底で、民意に応えた対処方針を導き出すべきだ。

 国民生活に直結する課題としては、まずマイナンバーを利用した施策の是非が挙げられよう。政府は来年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナカードに一本化する方針だが、「マイナ保険証」に別人情報をひも付けたミスが相次いで発覚。他人の公金受取口座が誤登録された事例も明らかになり、個人情報が漏えいした。

 共同通信の世論調査で、保険証廃止の延期か撤回を求める回答が計76%に上ったのも当然だ。マイナンバーを巡る問題は先の国会終盤に表面化した。事態の深刻さを考えれば、6月21日までの会期を延長してでも、原因究明と対応策の審議が必要だった。

 しかし、岸田首相が衆院解散・総選挙の可能性をちらつかせたことで、与野党を通じて延長論は大勢とならず、所定の会期で国会は閉会した。これでは三権分立の下、国会が行政監視の責務を果たしたとは言い難い。

 国会は今月5日の衆院に続いて、参院でも26日に閉会中審査を行うものの、審議時間は限定され、国民の不信感解消は望めない。

 首相は、マイナンバーにひも付けた情報の総点検に関する中間報告を8月上旬にまとめる意向を示した。ただ、報告だけにとどまらせておくわけにはいかない。十分な会期を確保した臨時国会を直ちに開催し、保険証廃止に象徴されるマイナカード利用拡大の当否やトラブルの再発防止策について、論議を尽くすべきではないか。

 東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出問題も見過ごせない。政府が放出開始を「夏ごろ」としているためだ。

 国際原子力機関(IAEA)は、放出計画が「国際的な安全基準に合致する」とした報告書を公表したが、風評被害を懸念する漁業関係者には反対論が根強い。

 世論調査でも、政府の説明を「不十分だ」とする答えが80%に達している。既定方針だからといって国会で詰めた質疑をしないまま放出に踏み切っていいのか。

 安全保障分野では自民、公明両党が今月、防衛装備品の輸出ルールを見直し、殺傷能力のある武器の輸出を容認する方向で一致した。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に続いて、「平和国家」を変質させかねない政策変更だけに、政府方針となる前から国会で議論することが求められる。

 国会再開が10月になりそうなのは、今後、内閣改造・自民党役員人事や外交日程が予定されているためだが、国会審議が全くできないわけではあるまい。

 臨時国会は、憲法53条に基づき内閣が召集を決定する。一方で同条は、衆参両院のいずれかで総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会を召集しなければならないとも定めている。

 だが、召集期限は明記されておらず、昨年も立憲民主党など野党の要求はたなざらしにされた。要は岸田首相の判断にかかっているわけで、国会を早期に召集するか否かは、国民への説明責任に対する首相の考え方を示すことになろう。