朝8時を過ぎたばかりだというのに、照り付ける厳しい日差しに音を上げていた。広島で勤務した2000年から5年間、「原爆の日」の8月6日は平和記念公園に足を運んだ。「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」を取材するためだ▼全国原爆死没者都道府県遺族代表として島根、鳥取両県から参列した2人の話を聞いた後、屋外の報道陣席へ。当時は今のような座席のほぼ全面を覆う大型テントはなく、直射日光をいや応なく浴びた。ただ、78年前のきょう、原爆の閃光(せんこう)に照らされた人々の苦しみを思えば、何も言えない▼<シェークスピアは「悲しみを言葉に出せ」と説いている。しかし、原爆の閃光に照らされ、言葉は通じない。広島と長崎の人々の恐怖と苦しみは、どんな言葉を用いても言い表すことができない。しかし、私たちが、心と魂を込めて言えることは、繰り返さないということだ>▼核保有国の一つである英国のスナク首相の思いである。5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に参加。平和記念公園で献花し原爆資料館を訪問した際、戯曲「マクベス」の一節を引用して「芳名録」にこう記していた。G7首脳の記帳の中で最も心に響いた▼原爆投下から78年。被爆者や関係者は高齢化し、遺族代表でさえ、平和祈念式への参加者が年々減っているという。だからこそ、過ちを「繰り返さないこと」の大切さを改めて心に刻む。(健)