山火事で壊滅的な被害を受けた米ハワイ・マウイ島ラハイナ=16日(共同)
山火事で壊滅的な被害を受けた米ハワイ・マウイ島ラハイナ=16日(共同)

 日本人観光客にも人気の米ハワイ・マウイ島で発生した山火事による犠牲者は100人を超え、過去100年間に米国で起きた山火事では最悪の惨事となった。

 太平洋に浮かぶハワイでは長年、台風や津波の被害に対する警戒が強く、山火事は災害対策の盲点を突かれた形ではあったが、対応には不備があり、人災の側面すら浮かんでいる。

 ハワイ州政府の統計によれば今年上半期、約500万人がハワイ諸島を訪問、うち日本人は約21万4千人に上っており、今回の大災害は決して人ごとではない。

 まず気になるのは、初期の消火活動や避難指示が適切であったかどうかだ。

 火災発生の確認は8日未明。地元マウイ郡が発出した災害情報の記録を見ると、同日午前9時55分には、その後最も被害が大きくなった島西部ラハイナ地区での鎮圧を発表していた。実際には、折からの強風で火は勢いを取り戻し、米テレビは「間違った安心感を住民に与えたのではないか」と指摘している。

 さらに、消火活動に必要な給水が停電によって不足、郡消防局はマウイ島西部地域の市民に対し節水を呼びかけていたことが確認できる。地元消防士は米テレビに「水圧が低く、消火は不可能だった」と証言。防災インフラが機能不全であったことがうかがえる。

 避難指示の面でも問題が見つかった。

 緊急事態管理局が住民に危険を知らせる警報サイレンの使用を見送っていたことが分かった上、管理局長が明らかにした理由は「市民はサイレンが鳴った場合は、(山側の)火の中に逃げていた」というお粗末なものであった。管理局長は辞任。初動対応を疑問視する声が上がり、州司法長官は第三者機関に調査を依頼する方針だ。

 国際津波情報センターによれば、ハワイでは1812年以来、少なくとも計160回もの津波を受けている。そうした土地の事情を考慮すれば、「サイレンは津波用だ」との主張にもわずかながらの説得力はあるだろう。

 しかし、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、マウイ島西部は(1)燃えやすい植生が豊富(2)英語を話さない住民が多い(3)車を持たない住民の比率が比較的高い―など火災発生と避難時に直面する複合的な危険性が指摘されていた。

 出火当時ハワイ諸島近くを通過していたハリケーンの影響による強風と干ばつなどの気象条件が被害を拡大させた。出火元は送電線との疑いが強まっている。真相が解明されるまで予断は避けたいものの、世界有数の観光地として防災対策が不十分だったのは間違いない。

 世界各地で大規模な山火事が頻発する中、ハワイは今後、世界に範を示すような多様な災害に対応できる防災体制を追求すべきだ。復興に向けては災害に強い観光地という新たな目標に取り組んでほしい。住民や観光客の命が最優先にされなければならないのは言うまでもない。

 ハワイ王国時代に一時首都が置かれたマウイ島の復興は、ハワイ州政府任せにはできまい。バイデン大統領の連邦政府にも本腰を入れて知恵と資金を出し合っていくことを求めたい。人々が楽しみと安らぎを求める楽園での惨事は決して繰り返してはならない。