ローレン・スペンサー・スミスのアルバム「ミラー」
ローレン・スペンサー・スミスのアルバム「ミラー」

 ユーチューブやサブスクで手軽に音楽を楽しめる時代ではあるけれど、「これは」と思うアーティストのアルバムはCDを買って聴いている。10代だったレコードの時代、新譜に針を落とす時に抱いたワクワク感と同じような高揚感を今も味わいたいからだ。そして、期待通り、あるいは予想を超える作品に出合えた時の喜びは格別だ。もちろん”ハズレ”もあって、その時は一転がっくり。「金返せ」とも言えず、自分の耳の不確かさを悔やむ。ネットで収録曲を聴いてから判断すれば失敗はないが、それだと新鮮味がなくなってしまう。悩ましいところだ。

 最近買った1枚は7月にリリースされたローレン・スペンサー・スミスのデビューアルバム「ミラー」。10代とは思えぬ表現力豊かなハスキーボーカルが持ち味のカナダの19歳女性シンガー・ソングライターだ。昨年から話題になっていたいくつかの曲に引かれ、待ちかねたアルバムだった。既にユーチューブには収録曲が全曲アップされていたが、あえて聴かずにCDを注文。期待を込めてプレーヤーに入れた。

 最初の曲はどんな感じだろう? アルバムの1曲目というのは、いかにも幕開けらしい元気のいい曲や、既に知られたヒット曲が来ることが多いが、このアルバムは意外にも地味なバラード「never been in love」で始まった。こんな静かな始まり方もありだ。しかし、落ち着いた曲ながら、じわじわと盛り上がる。アルバム全体への期待感が高まっていく。次の「love is an overstatement」も同じようなバラードだが、よりポップな味わいがいい。3曲目に、ヒットしたデビューシングル「fingers crossed」が続き、4曲目でゲイル、エム・バイホルドという2人の若手女性アーティストとコラボしたロック色の強い「fantasy」が異彩を放つ。さらに昨年リリースの名バラード「narcissist」と来たところで、「このアルバムは間違いない」との思いを抱く。全15曲を聴き終えた時、それは確信に。魅力ある歌声と心に響くメロディーが堪能できるアルバム。また一つ、愛聴盤が増えた。(洋)