朝、取材先に車を走らせる時によく聴く曲はジャズピアノ奏者ホレス・シルバーの「ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ」(1959年の同名アルバムに収録)。疾走感あふれる爽快な曲で、眠気が吹き飛び、元気が出る。ホーンが威勢よく鳴り響き、ピアノソロは軽やかで弾むようだ。
シルバーは作曲センス抜群で、乗りがよく親しみやすいメロディーをつむぐ。同じアルバムの収録曲「シスター・セイディ」は、ダーンダン、パッパパラララパーパッ…と、ピアノとホーンが掛け合いを繰り返す導入部に気分が浮き立つ。
ラテン音楽をよく取り入れる点も好きだ。「ニカズ・ドリーム」(60年のアルバム「ホレス・スコープ」に収録)は背景で鳴り続けるラテン・パーカッションがいいアクセント。前半はホーンで聴かせ、中盤以降にピアノソロという構成は「ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ」「シスター・セイディ」と同様だ。

ピアノ奏者なのに、トランペットやサックスの持ち味をしっかりと引き出す曲を作るのが興味深い。
逆に、「オパス・デ・ファンク」(55年のアルバム「ホレス・シルバー・トリオ&アート・ブレイキー、サブー」に収録)のようにピアノ、ベース、ドラムのトリオ演奏の曲は物足りない。このアルバムでシルバーは影が薄い。ドラム奏者アート・ブレイキーとコンガ奏者サブー・マルティネスが太鼓バトルを繰り広げる収録曲「メッセージ・フロム・ケニア」(作曲はブレイキー)の方がはるかに魅力的で、リーダー作なのに、お株を奪われている。
だからといって、ピアノ奏者としてはたいしたことない、と結論づけるのは早計だ。例えば「ソング・フォー・マイ・ファーザー」(1965年の同名アルバムに収録)のピアノソロ。タタタ、タランタランタランタラン…と軽やかに、じゃれるような演奏はえもいわれぬ味わい深さがある。
なぜ、シルバーの曲はホーンが入ると生き生きし、親しみやすいのか。代表曲をカバーしたジャズ歌手ディー・ディー・ブリッジウオーターのアルバム「ラブ&ピース~トリビュート・トゥ・ホレス・シルバー」(95年)を聴くと気づく。
シルバーの曲は歌が合うのだ。ディー・ディーはパラッパー、パパパパ…のようにホーンに似せたスキャットも交え、これが絶妙。もともとシルバーは歌のように作曲し、ホーンに歌わせていたのかと想像する。シルバーはゲスト参加するうえ作詞も手がけており、たぶん間違いないと思う。(志)