7月、最高裁のある判決が注目を集めた。戸籍上は男性で、女性として暮らす性同一性障害の経済産業省職員が、省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた上告審で、最高裁は「制限を認めない」との判断を示した。判決は、職員が「日常的に不利益を受けている」と指摘した一方、公共施設のトイレなどを想定した判断ではないと補足意見も付け、この問題を改めて議論するべきとした。判決を受け、当事者を装い、わいせつ目的の侵入者が利用しないかという不安の声もある。体と心の性別が一致しないトランスジェンダーの当事者に、トイレを巡る問題について聞いた。
(Sデジ編集部・鹿島波子)

【関連記事】トイレ制限認めず、国に違法判決

トイレ表示も、男性が青、女性が赤という違いがなくなり、統一される流れもある=松江市内

 島根県を何度も訪れ、県内の性的少数者(LGBTQ)の当事者や支援者でつくる団体に所属する石田なりなさん(60)=東京都在住=。男性の体で生まれたが、心はずっと女性だ。今は公私ともスカートで生活している。

 仕事は主にリモートの内勤業務で、服装は自由。2017年ごろから徐々に私生活で女性の服装を着るようになり、2020年春から職場でもスカートをはくようになった。周囲の同僚は女性として接してくれているが、女性に「嫌と感じられるのは私も嫌だから」と、今でも男性トイレの個室を使っている。昨夏には性別適合手術を受け、体も女性にはなったが、男性時代を知る仲間への配慮から、男性トイレの使用を続けている。

自身の性同一性障害を証明するさまざまな資料を基に話す、石田なりなさん=東京都内

 一方、会社以外は女性トイレを使用するようになった。女性用の服を着ていて、女性の友人と一緒にいるときは、自分も周囲も違和感を抱かず、トイレを使用できるという。ただ、今年4月に東京都の歌舞伎町のビルに設けられたジェンダーレストイレが「性犯罪の温床になる」などの抗議を受け、男女別に改修される出来事があった。問題になったことで「ハードルが上がってしまった」と周囲の目を気にするようになったという。「女性を守ることは賛成」と不安の声は理解できるといい「一人でいるときは多目的でもいいのかな」と今は考えている。

 「どう見られているかは常に気にしている。通報されて当たり前だと思っているから」。いざという時のため、診断書をお守り代わりに持ち歩く。そのために外見から、完全に女性に見られるように心がけているが「そこまでしなくても、理解してくれる世の中になってくれたら」と願う。

 ***

 出雲市在住で福祉関係の仕事に就く30代の結輝さんは、体は女性だが、物心ついた時から性自認は男性だった。小学4年の頃に髪を短くして以来変わらず、職場でも勤務する前からトランスジェンダーだということをオープンにして働いている。...