戸籍上は男性で、女性として生活するトランスジェンダーの経済産業省職員が省内で女性トイレの利用を不当に制限されたと、国に処遇改善を求めた訴訟の上告審判決で最高裁第3小法廷は、制限を妥当とした人事院の判定を違法とする判断を示した。これによって判定は取り消しとなり、経産省は対応の見直しを迫られることになる。
職員は性同一性障害と診断されたことを職場で明かし、自認する性別に合った女性トイレを利用したいと要望。経産省は職員との話し合いや職場での説明会を実施し、女性職員への配慮から職場とは別の階にある女性トイレの利用を認めた。職員は是正を求めたが、人事院は応じなかった。
トランスジェンダーなど性的少数者を巡っては、いわゆるLGBT理解増進法が先に成立、施行された。ただ国会審議の過程で自民党の保守派から「体は男でも自分は女だから女子トイレに入れろとか、ばかげたことが起きている」「女性の権利侵害は許されない」など反発の声が次々と上がり、偏見や誤解の根深さが浮き彫りになった。
職員の訴えを認めた判決は少数者への理解を深め、多様性が尊重される環境を整えるため、社会全体に意識改革を強く促したといえよう。欧米に比べ日本は少数者のための仕組みづくりが大きく後れており、官民を問わず、環境改善の取り組みを加速させるべきだ。
職員は50代。幼いころから自らの性別に違和感を抱き、経産省に入省後の1999年ごろ性同一性障害と診断された。女性ホルモンの投与を受けるなどして2009年に女性として勤務したいと上司に伝え、翌年には同僚らへの説明会を経て女性の身なりで働き始めたが、勤務フロアと上下1階ずつの女性トイレ利用は認められなかった。
家庭裁判所の許可を得て戸籍の名前も変更したが、健康上の理由で生殖能力をなくす性別適合手術は受けていない。人事院にトイレ制限の撤廃を求めても認められず、15年に訴訟を起こした。
最高裁は「職員は自認する性別と異なる男性トイレか、職場から離れた女性トイレを使わざるを得ず、日常的に不利益を受けている」と指摘。人事院の判定について、職員の女性トイレ利用でトラブルが起きたことはなかったとして「他の職員に対する配慮を過度に重視して職員の不利益を不当に軽視し、著しく妥当性を欠く」と述べた。
性的少数者を巡る初の最高裁判断だが、判決の補足意見は、今回のような職場とは異なり、不特定多数の人が集まる公共施設などでのトイレ利用を想定した判決ではないとした上で「この問題は機会を改めて議論されるべきだ」としている。
近年、少数者の認知度は高まり、同性婚を認めていない現行制度を「違憲」「違憲状態」とする地裁判決が相次いだのは記憶に新しい。
またトランスジェンダーを巡っては、性別適合手術を性別変更の要件としている性同一性障害特例法の規定について最高裁大法廷が憲法判断を示す見通しで、合憲とした判例が変更される可能性もある。
だが国会では、少数者の権利保護に向けた議論は遅々として進まない。トランスジェンダーの4割以上は職場で使いたいトイレを利用できないとされ、そのような厳しい現状に国会は正面から向き合う必要がある。