北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は、ロシアのウクライナ侵攻に対抗しスウェーデンの新規加盟で合意、先に加盟したフィンランドと合わせ、欧州北部のロシア包囲網を完成させた。ウクライナに対しては加盟時期は明示できなかったものの、将来を見据えた軍事面の一体化を軸に長期的な支援を確認。ストルテンベルグ事務総長は歴史的な成果と強調した。
ウクライナ加盟までは日本を含めた先進7カ国(G7)が安全保障を約束するという柔軟な対応力を見せた首脳会議は、総じて評価できる内容だったが、時期などを巡る不協和音も伝わった。
一方、欧州の戦争であるウクライナ情勢が膠着(こうちゃく)化する中、ロシアが接近する中国をにらみインド太平洋地域への関与強化も再確認するなど、グローバルな安全保障機構としての性格が強まっている。
ウクライナ戦後を考慮すれば、対ロ包囲網強化だけが解決策かどうかの検討もいずれ必要になるだろう。困難を抱えつつ変化し続けるNATOや関係国の首脳には、軍事力や対決姿勢に過度に傾斜しない平和志向の協力網構築を期待したい。
過激派対策を名目にスウェーデン加盟に難色を示したトルコをNATO盟主の米国が説得、根深い対立を解決できたことは団結力の表れだ。ただ、最大の焦点であったウクライナのNATO加盟問題では、考え方の違いが浮き彫りになった。
ロシアと国境を接するために侵略への危機感が強いバルト3国などはウクライナの早期加盟を求めるが、米国は難色を示した。これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は一時「ばかげている」と強い不満を表明した。米ワシントン・ポストによれば、米政府側はこの反応に「激怒した」という。
英国のウォレス国防相は、過去にゼレンスキー氏から供与を希望する兵器のリストを提示され、注文が簡単なネットショッピングに例えて不満を伝えたと語り、スナク英首相が火消しに走るなど、長期的な支援疲れを予感させる一幕もあった。
ウクライナ加盟手続きで期限を明記できなかったのはやむを得なかった。集団防衛を定めた北大西洋条約の第5条は、加盟国が軍事攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃と見なすと規定。ウクライナが今加盟すれば、加盟国は軍事行動を取る義務が生じる。またウクライナが納得するような近い時期を明示すれば、ロシア側に戦争継続の日程目標を与えてしまったはずだ。
NATOは1990年代のコソボや2001年に始まったアフガニスタンへの介入で、グローバルな活動を展開するようになった。
首脳会議に出席した岸田文雄首相がNATOとまとめた新文書は、NATOの演習・訓練への日本の参加機会拡充で合意。中国けん制のため、NATOをインド太平洋地域に一層関与させる方向を固めた。
急速に流動する安全保障環境には柔軟な対応が必要だ。しかし米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」や日米豪印の協力枠組み「クアッド」を自国に対する包囲網と受け止める中国は、NATOのアジア関与を強く警戒している。そうした懸念にも配慮しつつ、圧力と対話を巧みに使う平和への知恵がNATOや日本の指導者に求められている。