新型コロナウイルスの新規感染者数は、沖縄県を筆頭として全国的に増加傾向が鮮明になった。専門家は第9波に入ったとの認識を示している。
既に世界は市民の行動を制限しない「ウィズコロナ」に転換し、日本も後戻りは難しい。ただ、これまで日本では感染拡大の新たな波が来るたびに死者数が増してきた。この実態を踏まえて、国民の生命を守る対応が必要である。
重症化率が以前より低下したとはいえ、高齢者や基礎疾患があるなど重症化リスクの高い人々にとって、新型コロナはなおも危険な感染症だ。ウィズコロナが基本とする「個人判断」には限界がある。病床確保など第9波への対策は、やはり政府が先頭に立つべきだ。
新型コロナの感染症法上の位置付けは5月8日、季節性インフルエンザと同じ5類へ移行。以後、全国約5千の定点医療機関から報告される新規感染者数が増え続け、1医療機関当たりの平均は9人を超えた。中でも沖縄は一時50人近くに増え、病床使用率も約80%に達して医療逼迫(ひっぱく)と言っていい状況にある。
加藤勝信厚生労働相は「沖縄は前回流行のピークを超える状況」と言う。ならば政府は第9波と正面から認め、関与を強めるべきだ。流行の波は今後も繰り返す可能性がある。5類移行で感染症対策は一段落したとする「緩み」は禁物だ。
感染者増は社会経済活動の活発化に加え、オミクロン株の新たな派生型「XBB」拡大が影響している。過去に感染して抗体を持つ人が人口の9割近い英国では流行の波が徐々に小さくなった。だが割合がその半分程度の日本は縮小サイクルに入るまでなお時間がかかるという。第9波は第8波を上回る規模になると想定した対応が必要だ。
沖縄は国内外からの観光客でにぎわう。過去には沖縄から全国に流行が拡大した例もある。今夏は子どもの間でヘルパンギーナ、RSウイルス感染症なども広がっており、本格的な夏休みの旅行・帰省シーズンを前に警戒を強める必要がある。
5類移行後の医療体制はコロナ専用の特別な対応から、幅広い医療機関による通常対応に移行しつつある。行政が担っていた入院調整も原則病院間で行う。だが、小規模な診療所などが対応しきれなければ、守れる命も守れなくなる懸念がある。
故に対策の肝は、今回も医療体制の整備だ。過去の感染拡大時と同様、地域の大規模病院などに感染者が集中すれば逼迫が避けられない。沖縄はまさにそれに直面している。政府は一般の病院で広く対応できるような体制づくりを急ぐが、今はまだ過渡期だ。政府や自治体は責任を持って病床確保に指導力を発揮してほしい。
また5類移行では、政府の感染状況集計が「全数把握」から「定点把握」に変わり、公表も毎日から週1回に減った。このため、感染動向を把握して将来の見通しを立てる精度は落ちざるを得ない。加えて、感染状況が国民には実感しづらくなり、社会全体で危機感を共有できなくなったことも、第9波を招いた背景にあるだろう。
感染防止の基本である「3密」の回避、マスク着用はなお有効だ。政府が一律に対策や行動制限を求めなくても、私たちは親しい人たちを守るために自ら対策を取りたい。高齢者を中心にワクチンの接種も考えるべきだろう。