旧統一教会の解散命令請求を求める署名を文化庁に提出する元2世信者ら=2022年12月9日、文部科学省
旧統一教会の解散命令請求を求める署名を文化庁に提出する元2世信者ら=2022年12月9日、文部科学省

 事件の背景として、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額寄付問題などを浮き上がらせた安倍晋三元首相銃撃から、1年が過ぎた。政府はこの間、世論に強く背中を押される形で問題に対処してきた。

 宗教法人法に基づく質問権を行使し、文化庁が昨年11月に始めた教団の調査は長期化、いまも継続している。解散命令を裁判所に請求するか否かが、最大の焦点だ。

 悪質な献金強要などを規制するため、昨年末に成立した不当寄付勧誘防止法は6月に完全施行され、行政措置や罰則などすべての規定の適用が可能になった。

 解散命令の請求可否は、調査に時間がかかっても徹底的に証拠を積み上げた上で厳正に判断すべきだ。国会審議が拙速との指摘もあった同防止法も、実効性確保のための不断の改善が不可欠だろう。政府は決して対処の手を緩めてはならない。

 旧統一教会への質問権は、既に6回行使された。個別の法令違反と教団の関与を裏付け、活動の「組織性・悪質性・継続性」を立証するのが狙いだが、強制力はなく、ほぼ同じ質問を繰り返しているのが実情のようだ。教団側の回答は、1回目は段ボール箱8個分、2回目は小型段ボール箱12個分あったが、その後は封筒1通にまで減り、6回目は封筒1通と宅配用の袋2個だった。

 国家による「信教の自由」の侵害を防ぐため、宗教法人法が定める解散命令の要件は厳しい。単なる法令違反では足りず「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」場合などに限られる。

 オウム真理教など過去の解散命令2例は、いずれも教団上層部が刑事責任を問われたケースで、組織的な法令違反の立証が容易だった。今回はそうした刑事事件はない。

 教団の法的責任を認めた民事判決は22件あるが、大半は信者に対する教団の使用者責任を認めたもので、組織的不法行為を認定したのはわずか2件だ。その行為があったのも14年以上前で、現時点で解散命令を請求する根拠としては弱いと言わざるを得ない。

 文化庁は教団への質問だけでなく、被害者支援に取り組んできた弁護士連絡会から資料提供を受けたり、元信者らの証言を直接得たりしている。

 あらゆる証拠を積み上げたら、いずれは請求の可否を決断する必要があろう。その際には判断理由を国民にしっかり説明してもらいたい。

 不当寄付勧誘防止法も、決して万全ではない。旧統一教会の被害者らが期待していた「マインドコントロール(洗脳)」による寄付勧誘の明確な禁止が見送られ、家族による寄付取り消し権も限定されるなどし、一部に「ないよりまし程度の法律」の酷評もある。付則には、施行後2年をめどに見直す規定がある。同法に抵触する寄付勧誘の情報を集約、今後の行政措置などの効果も検証して見直しに備えるべきだろう。

 「空白の30年」。旧統一教会の被害関係者らが口にする言葉だ。1992年に教団の合同結婚式が注目を集め、高額献金や霊感商法が批判を浴びたが、以後は銃撃事件まで社会の関心は薄れ、政府も手をこまねいてきたことを指している。

 二度と「空白」を繰り返してはならない。事件から1年を機に改めて確認したい。