新型コロナウイルス感染症の医療支援が10月から縮小される。高額な抗ウイルス薬は全額公費負担だったが、最大9千円の自己負担が必要になる。入院費補助も従来の半額の最大1万円に減る。
いずれも来年3月末までの措置。政府はコロナの医療支援を来春廃止し、通常医療に移行させる考えだ。既に感染症法上の位置付けは季節性インフルエンザと同じ5類に下げられており、コロナ患者へ特別な医療支援を続ける法的根拠が乏しくなったのも事実だろう。
しかし、コロナは流行の「第9波」が続き、冬には次の波も予想される。重症化しにくくなってきたとはいえ、高齢者や基礎疾患を持つ人にはなお危険な感染症だ。急激な負担増で患者の受診控えを招けば、救える命も救えなくなる。政府はそのような事態を避け、慎重に通常医療への軟着陸を図ってほしい。
公費支援の対象薬はラゲブリオなど7種。一連の治療の薬価は数万円だが、従来は全額公費負担だった。今後はどの薬も、保険診療で3割負担の人は9千円、2割負担者6千円、1割負担者3千円の定額負担になる。入院費は、1カ月の医療費が上限額を超えた場合に支給する「高額療養費制度」を適用した上でさらに最大2万円を補助してきたが、半額になる。
今の状況が昨年までと違うのは、インフルエンザも同様に脅威になっていることだ。昨冬の流行が春以降も収まり切らないまま、8月下旬から増加傾向となり、9月に急増して9都県が「注意報」レベルに達した。今冬さらに拡大しかねない。
同時流行となれば、通常医療を受けるインフルエンザ患者から見ると、法的位置付けが同等なのに公費支援を受けられるコロナ患者は優遇されていると不公平感を抱くかもしれない。バランスを取るためにも、一定の見直しはやむを得まい。
9月からは、新型コロナウイルスのオミクロン株派生型「XBB・1・5」対応の改良型ワクチン接種が始まった。従来同様、全額公費負担だ。だが来年4月以降は、自己負担の生じる可能性がある「定期接種」への切り替えが検討されている。
これについても基本的に自費で打つインフルエンザワクチンとのバランスに配慮が必要だ。それでも、新型コロナウイルスの変異状況に合わせて今後も開発が続くであろう改良型ワクチンが、人々が費用負担を嫌うことにより接種が進まなくなれば、流行収束自体が遠のきかねない。費用補助を何らかの形で続ける検討も必要ではないか。
一方、コロナ病床を用意した医療機関に対し、一律に支給してきた病床確保料も、上限額が8割に縮小。重い患者への対応に絞り、国の目安に応じて感染拡大時のみ支給する形に変更される。コロナ対応が通常医療化すれば、再び大規模な流行が起きた場合、病床不足による医療逼迫(ひっぱく)がまた起こらないか。政府は細心の目配りと、危機再来を想定した対応の準備を怠るべきではない。
2022年度に全国の医療機関に支払われた概算医療費は前年度から1兆8千億円増え、過去最大の46兆円だった。コロナ患者の医療費が前年度の倍近い8600億円程度かかったのが響いた。
財政的にもコロナ医療への大型支出は限界に近いが、めりはりの利いた対処で国民を守る政府の責務は変わらないはずだ。