東京都中央区の日銀本店。31日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の再修正を決めた(資料)
東京都中央区の日銀本店。31日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の再修正を決めた(資料)

 インフレが長期化する下で過度の金融緩和を続ければ、円安をはじめ金融市場への好ましくない影響が生じて当然だ。日銀はその弊害を抑制するため大規模な金融緩和を再び修正したが、対応が後手に回っていると言うしかない。今の金融緩和の枠組みは限界であり、速やかに見直すべきだ。

 日銀は金融政策決定会合で、長期金利を0%程度に誘導する金利操作政策について、1%以下に抑えてきた上振れ幅が一定程度超えることを容認する修正を決めた。短期金利をマイナス0・1%に誘導するなど、大規模緩和全体は維持した。

 長期金利の誘導目標は変えないものの、一層の金利上振れを許容することで実質的な利上げ効果があるとみられる。足元の金利は1%弱と約10年ぶりの高水準だった。

 日銀は7月、それまで0・5%程度としていた長期金利の上限について、事実上1%へ引き上げる政策修正を決めたばかりだった。植田和男総裁は「念のためのキャップ」であり、「金融緩和の持続性を高めるため」と理由を説明していた。再びその引き上げを余儀なくされたのは、インフレや経済動向に日銀の金融政策がうまく適合していないからだ。消費者物価指数(生鮮食品を除く)は9月に前年比2・8%上昇し、日銀目標の2%を18カ月連続で上回った。食品の値上げに加え、円安と原油高が響いている。

 米国の長期金利が上がっている影響も大きい。米国ではインフレ退治へ昨春から利上げに転換したが、物価抑制に苦しみ引き締めは長期化。一方で、利上げ局面でも景気が堅調なことから長期金利の上昇が続き、これが日本へも波及し金利が強含む状況だった。

 結果的に今回の決定は、市場に追い込まれた政策修正と言える。約40年ぶりの物価高なのに、アベノミクス以来の大規模緩和に身動きが取れなくなったためである。植田日銀の誤算は明らかで、小手先の修正は限界と目を覚まさねばならない。

 金融政策の見直しの遅れは国民負担をより重くしている。第一に、1ドル=150円前後まで下落した円安である。原油などエネルギーのほぼ全量、食料の多くを輸入に依存する日本では、金融緩和による円安は輸入コスト増に直結する。そして、それが物価高をさらに深刻にする悪循環だ。

 岸田文雄内閣は、物価高への対応を柱とする経済対策を近く決定する。生活の負担減へ対策を取るのであれば、早くから金融政策の見直しに向けた日銀との意思疎通が必要だったのではないか。

 大規模緩和を続ける根拠は、ますます怪しくなっている。日銀が新たにまとめた物価見通しは2023、24年度ともに前年度比2・8%の上昇と、7月の予測からいずれも上方修正された。22年度は3・0%であり、見通しが当てはまれば3年続けて日銀の目標を超えることになる。植田総裁は「賃上げを伴う好循環の物価上昇でない」点を緩和維持の理由として強調してきたが、今回の見通しを受けても通用するだろうか。

 そもそも賃上げは、収益や経済環境を勘案して企業が個々に決定するものであり、金融政策にできることは限られる。日銀法の求める「物価の安定」に照らせば、日銀が今のインフレを手をこまねいて見過ごしていいはずはあるまい。