公選法違反事件に関与したとして柿沢未途法務副大臣が責任を取って辞任した。岸田文雄首相の第2次再改造内閣が9月に発足後、既に文部科学政務官が女性問題で辞任している。首相は自身の任命責任に言及するものの、その重さを本当に自覚しているとは思えない。
首相に任命責任を全うする意思があるのなら、まずは柿沢氏らが事実関係について説明を尽くすよう指導すべきだろう。
柿沢氏は東京都江東区を地盤とする自民党の衆院議員。同区では4月に区長選が行われ、木村弥生氏が初当選した。
その選挙期間中、木村氏陣営が、投票を呼びかける有料のインターネット広告をユーチューブに掲載したことが公選法違反に当たるとして告発され、東京地検特捜部が強制捜査に着手。特捜部から任意の事情聴取を受けた木村氏は辞職の意向を明らかにしている。
このネット広告の利用を提案したのが、区長選で木村氏を支援した柿沢氏だった。公選法の規定に対する認識不足があったとされるが、法秩序の維持を担う法務副大臣という役職からすれば、引責辞任は当然だ。
首相は参院予算委員会で「任命権者として責任を感じ、信頼回復に向け先頭に立って努力したい」と述べ、陳謝した。
同趣旨の発言をこれまで何回聞かされたことか。直近では、20代女性と不倫関係にあると週刊誌に報じられた自民党の山田太郎参院議員が文科政務官を辞任した時だ。
首相は参院本会議で「任命責任を重く受け止めている」と答弁し、「私自身が先頭に立ち、内閣として緊張感を持って先送りできない課題に全力で取り組み、国民の信頼回復に努めていく」と表明していた。
再改造前の内閣でも閣僚4人が「政治とカネ」問題や不適切発言などで辞任したことを思い起こせば、首相が真剣に任命責任を考えているか疑わしい。その場しのぎで使っていると見られても仕方あるまい。
今回の副大臣・政務官人事について首相は「適材適所」であることを強調していた。その体制から辞任が相次いだことは、個々の議員の資質より、来年秋の自民総裁選再選をにらんで、党内の力関係や当選回数を優先させた人事の弊害と言えるのではないか。
柿沢氏を巡る政府の対応は、憲法に抵触する国会軽視という由々しき問題もはらむ。参院予算委は、野党の申し入れを受けて辞任前の柿沢氏に副大臣として出席を要請したものの、辞表を出しているとして法務省側が「独断」で応じなかったという。
首相は法務省の判断について「質問権を奪い、国会の権威を損なう重大行為だった。二度とあってはならない」と反省の態度を示した。
だが、行政府のトップである首相が決断し、指示すれば、出席させることができたはずだ。国会の行政監視機能を形骸化させないために、自民党も強く働きかけるべきだった。政府には法務省内で柿沢氏を含め、どんなやりとりがあったか、つまびらかにしてもらいたい。
「必要に応じて政治家として説明責任を果たすべきだ」。首相は柿沢氏にそう注文したが、これもまた常とう句だ。まるで人ごとのようにしか聞こえない。そのような姿勢では、岸田政治への信頼回復は望むべくもない。