臨時閣議を前に開いた政府与党政策懇談会であいさつする岸田文雄首相(右から2人目)=2日、首相官邸
臨時閣議を前に開いた政府与党政策懇談会であいさつする岸田文雄首相(右から2人目)=2日、首相官邸

 国民が苦しむ物価高を悪化させる金融政策や円安はほったらかし、誰もが日本の財政に不安を覚えるのに「還元」と称して減税に突き進み、莫大(ばくだい)な予算をばらまく―。岸田文雄首相の経済政策は国民感覚とずれていると言うほかない。もっと地に足を着けた政策運営をしてもらいたい。

 政府は、17兆円超の規模となる経済対策を閣議決定した。財源確保のための2023年度補正予算案を今国会へ提出、速やかな成立を図る。対策は(1)物価高(2)持続的賃上げと地方の成長(3)成長強化と投資促進(4)人口減少(5)国民の安全・安心―の5本柱で構成する。目玉は岸田首相肝いりの定額減税だ。

 「成長の成果を還元」し「物価高から国民生活を守る」ためとして、扶養家族を含めて1人当たり所得税3万円、住民税1万円の計4万円の減税実施を明記。非課税の低所得世帯には1世帯当たり7万円を給付する。

 インフレが長引き、特に食品の値上がりが著しい中で、低所得家計への支援は理解できる。しかし所得・住民税減税を素直に喜べる国民は、どれだけいるだろうか。

 年明けの通常国会での関連法案成立を経て、実施は来年6月からになる見通しだ。物価高が直撃する家計の一助には、あまりにも遅過ぎる。

 減税には計3兆円超が投じられる計画で、岸田首相は「子育て世帯の分断を招いてはならない」として、高所得世帯も対象に含める意向だ。詳細は与党の税制調査会に委ねられるが、所得制限のない減税ならばらまき色は一層強まろう。

 何よりも国民に疑心を生んでいるのは、防衛増税や少子化対策の費用など今後の負担と減税の関係があやふやな点である。1千兆円超の借金を抱える国の財政窮状と合わせて、国民の将来不安は高まるばかりだ。これでは減税しても貯蓄に回るだけではないか。

 政策のちぐはぐさは、エネルギー価格の抑制策にも通じる。対策は年末が期限のガソリンなど燃油と電気・ガス代を抑える補助金について、燃油を来年4月末まで、電気・ガス代は来春まで続けると盛り込んだ。

 価格抑制は巨額の財政負担を要するだけでなく、かえって需要を刺激し脱炭素に逆行する。政府による「出口」の議論の怠慢が、政策選択の余地を失わせた格好である。

 対策を読むとスタートアップ(新興企業)支援やデジタル田園都市国家構想の推進など、政府が6月に決定した「骨太方針」との重複があちこちにある。各省庁は骨太に基づき24年度予算案の概算要求を提出、来月には政府が成案をまとめる。

 その予算案策定のタイミングで経済対策を打ち出す切迫した必要性があっただろうか。各省庁は、骨太方針や概算要求時と同じような作業を余儀なくされたはずだ。このような行政と政策立案の非効率は許されない。

 今年の骨太方針は、新型コロナウイルス対策を機に急膨張した財政支出について「平時に戻していく」と強調した。それなのに今回の対策は、民間分の支出などを合わせると事業規模が37兆円超に上るという。

 景気が緩やかに回復し、需給ギャップがほぼ解消している中で巨額対策を打てば、インフレと人手不足を悪化させる恐れがある。この点を取っても岸田首相の「ずれ」にそしりは免れまい。