ガザの悲劇が拡大している。イスラエルのネタニヤフ首相はイスラム組織ハマスとの戦闘について「戦争は新しい段階に入った」と述べて、地上軍をガザ地区に投入し攻撃を激化させた。ハマスが標的というが、ガザは狭い土地に200万人超が暮らす人口密集地だ。戦闘の激化で多くの市民が犠牲になっている。
ハマスの極めて残虐な先制攻撃は断じて許せない。イスラエルは国民を守る自衛権を持つ。だが一般市民を巻き込む攻撃を強化すれば、国際人道規範に完全に反する。民主主義国家を自任するイスラエルなのだから、市民の犠牲もいとわない無差別報復は自制すべきだ。世界の反発はイスラエルの平和と発展を長期的に損なってしまう。
10月7日のハマスによる攻撃があってから既に双方で1万人近い犠牲者が出ているという。ハマスが拘束する200人を超すとされる人質の解放も激戦の中では難しい。
イスラエルが通告したガザ市民の南部への退避は十分には進んでいない。「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区は閉鎖されており、ハマスによる奇襲攻撃以来、食料や水、医療品など最低限の必需物資も大幅に足りていない状況だ。
国連総会は27日に「人道的休戦」を求める決議を121カ国の賛成で採択した。決議に法的拘束力はないものの、グテレス国連事務総長は、即時停戦と人質の解放を求めた際に「いかなる当事者も国際人道法の上に立っていない」と明確に述べた。
米国は国連総会の決議にハマス非難の表現が入っていないとして反対票を投じたが、親イスラエルとみなされる米国でさえもバイデン大統領がネタニヤフ首相に国際人道法の順守を求めた。欧州連合(EU)首脳会議も人道支援のための「戦闘の一時中断」要請の方針で合意し、世界各地では停戦を求めるデモが起きている。
市民の巻き添え回避と人道目的のための一時停戦は国際世論の総意と言えるだろう。だが、イスラエルは攻撃激化に踏み切り、それに逆行した。
ネタニヤフ首相は強権的な司法改革で国内世論を分断し、強硬な対パレスチナ政策を唱える極右勢力と「史上最右派」政権を率いた。
ハマスの奇襲攻撃を防げなかったことで国内で批判が高まっており、失態の埋め合わせのためにも激しい攻撃に出る必要に駆られているようだ。
気になるのはイスラエルと対立するイラン系組織の動きだ。米国はこれらの組織が中東地域に展開する米軍への攻撃を急増させているとして、シリアにあるイラン革命防衛隊の関連施設を空爆した。展開次第では、一気に中東全体に飛び火する恐れがある。そうした事態を防ぐためにもガザでの早期停戦が必要だ。
最も影響力を持つ米国は「イスラエルの味方だ」との立場で、イスラエルの抑制に本腰を入れていない。トランプ前政権がイスラエルの主張を次々と受け入れるなど、長年の親イスラエル政策は、パレスチナ人を置き去りにした。米国の責任は大きい。
早期停戦を目指すとともに本質的な課題であるパレスチナ問題の解決に向けた国際的な取り組みを始めるべきだ。日本はイスラエル、パレスチナ双方と良好な関係を持つ。まずはイスラエルに自制を強く求めたい。