イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの攻勢を強め、事態は深刻さを増している。地理的には遠く離れた日本だが、「人間の尊厳」を重視する立場だけに現状を看過できないはずだ。
経済的にも原油資源の多くを中東地域に頼り、状況を注視する必要がある。人道的危機を回避するために、あらゆる手段を使って事態を食い止めるよう全力を尽くす外交努力を、日本政府に求めたい。
日本政府の代表としては上川陽子外相が3日、イスラエルとヨルダン川西岸のパレスチナ自治区を訪問、隣国のヨルダンも回った。イスラエル軍とパレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘が10月7日に始まって以来、日本の閣僚が現地を訪問したのは初めてだ。
7、8両日には、東京で先進7カ国(G7)外相会合が予定されており、議長国として議論を主導する。G7としての明確なメッセージを発出するためにも必要な訪問だった。
上川外相はイスラエルのコーヘン外相との会談で、ハマスによるイスラエル攻撃を「テロ」と非難し、ガザの人道状況改善のため、一時的な戦闘中断と国際法に従った行動を求めた。
パレスチナ自治政府のマルキ外相との会談では、パレスチナに総額6500万ドル(約97億円)の追加人道支援を行う考えを表明。イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を支持する日本の立場は不変との方針も伝えた。
日本政府は「2国家解決」の原則に基づき、米国とイスラエルの同盟関係を尊重する一方、パレスチナには経済的自立を中長期的に促す「平和と繁栄の回廊」構想を進めてきた。中東アラブ諸国との良好な関係を維持してきたのも、原油依存という現実がある。
過去に中東地域を植民地にしたことがない日本として、一定の信頼関係を築いてきたことは事実だ。その実相がいま問われている。
米国のブリンケン国務長官も3日にイスラエルを訪問。ネタニヤフ首相と会談し、一時的な戦闘中断を申し入れたが、首相は「(ハマスによる)人質解放まで、いかなる戦闘中断も拒否する」と応じなかった。
一方、上川外相が追加支援を表明した西岸地区の自治政府はガザでは統治能力を失っているとされる。日本の支援が危機回避につながるとの確証は乏しかろう。
日本政府が徹することは両地域のバランスに配慮するだけではなく、人道的危機をいかに回避するのかという一点ではないか。岸田文雄首相は臨時国会の所信表明演説で、「『人間の尊厳』という最も根源的な価値を中心に据え、世界を分断・対立ではなく協調に導くとの日本外交の立場を強く打ち出す」と述べた。
であれば、先に国連総会で121カ国の賛成で可決された、イスラエル軍とハマスに「人道的休戦」を求める決議を棄権したのはなぜか。首相は「ハマスのテロ行為、人質拘束を明確に非難する文言などを追加するカナダ提出の修正に賛成し、(本会議決議案に)棄権した。英国やオーストラリア各国なども同様の投票行動を取った」と国会で説明した。
だが、「人間の尊厳」という原則を貫く日本外交の基本方針から逸脱していないか。危機への対応には、日本外交の基軸を明確にすべきだ。