1992年2月、オランダのマーストリヒトで欧州連合条約の調印を祝う加盟各国の政府や議会の指導者ら(ロイター=共同)
1992年2月、オランダのマーストリヒトで欧州連合条約の調印を祝う加盟各国の政府や議会の指導者ら(ロイター=共同)

 欧州連合(EU)条約(通称マーストリヒト条約)の1993年11月1日の発効により、EUが12カ国体制で発足してから30年を迎えた。

 EUは現在加盟27カ国、総人口約4億4680万人に拡大。域内単一市場を実現し、単一通貨ユーロを導入した(20カ国)。先進7カ国(G7)会合にもEUとして参加する権利を獲得。欧州の民主国家の統合計画が多くの危機を乗り越え前進していることを高く評価したい。ロシアのウクライナ侵攻を受けた欧州安全保障体制の再構築、パレスチナ自治区ガザ情勢、気候変動、デジタル、人工知能(AI)など世界が直面する課題解決に指導力を発揮できるのか、EUの真価が問われている。

 92年2月にオランダ・マーストリヒトでEUの前身、欧州共同体(EC)12カ国の代表らが調印した条約は、共通外務・安全保障政策、司法・内務協力を政策の柱に加えるとともに「EU市民権」を導入し、欧州単一通貨創設の道筋も決定。EUは89年の東欧革命、91年のソ連崩壊で「社会主義圏」から解放された東欧諸国の受け皿となった。第2次大戦後、東西に分断された欧州を民主主義、基本的人権の尊重という共通理念の下に統合したEUの功績は大きい。

 欧州諸国は経済・政治統合を通じた連合と単一市場の結成により、国際競争力を強化する戦略を描き、EUに外交・安保、経済、通貨など国家主権の一部を移譲するという重大な決断をした。

 マーストリヒト条約交渉当時、西ドイツは東西ドイツ統一の承認を得るため、世界の最強通貨の一つだったマルクの放棄、単一通貨受け入れを決めた。ただ、英国は単一通貨参加を拒否、統合推進に反発を強め2020年1月にEUを離脱した。現在も続く統合の「推進派」と「懐疑派」の対立克服には、EUが成果を積み上げていくしかない。

 今日のEUではヒト、モノ、サービス、資本の自由な移動が可能で、EU市民は域内のどこでも居住、就学、就職ができ、教育や医療・社会保障を受ける権利を保障される。日本人も、欧州の多くの国々を出入国審査なしで移動し、単一通貨ユーロで支払うなど統合の恩恵を実感できる。

 一方で、EUは深刻な危機も乗り越えてきた。ギリシャで09年に起きた財政危機に端を発した信用不安の拡大でユーロの信頼が揺らぎ、各国の財政、金融の健全化など構造改革を迫られた。中東・北アフリカの紛争を逃れ欧州に達する難民が15年に急増し、受け入れ分担を巡り加盟国が対立。フランスやドイツでイスラム過激派のテロ事件が続発した際には、国境検問が一時復活し「自由な移動」原則が後退した。

 看板政策の共通外交も苦難の道が続く。EUはウクライナに侵攻したロシアに強力な制裁を科したが、巧妙なロシア外交に団結を揺さぶられている。パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘への対応でも足並みの乱れは隠せない。

 EUは12年、「欧州の平和と和解、民主主義や人権の向上に貢献した」理由でノーベル平和賞を受賞した。自由で繁栄する欧州を築く壮大な試みは道半ばだ。自由で平和な東アジアの実現を目指す日本は、共通の価値観を持つEUと連携を強化していくことが重要だ。