臨時国会は2023年度補正予算が成立し、終盤に入った。
岸田文雄首相は論戦のヤマ場を乗り切ったと受け止めているかもしれないが、内閣支持率の下落を招いた国民の疑念は晴れないままだ。残る会期で説明責任を果たさなければ、政権から離反した民意は戻るまい。
10月20日に召集された臨時国会の会期は、12月13日までの55日間。9月に第2次岸田再改造内閣が発足した後、初の本格論戦の場だった。
政府は、物価高の家計負担を緩和するとして新たな経済対策を決定。対策の財源となる13兆1992億円の補正予算案を国会に提出した。首相主導の所得税と住民税合わせて1人当たり4万円の減税は、24年6月からの実施で補正予算の枠外だが、質疑ではその当否が最大の焦点になった。
共同通信の世論調査で、非課税の低所得世帯向けの7万円給付を含め「評価しない」との回答が6割を超え、他社の調査でも同傾向だったからだ。
減税されても、防衛力強化のための増税など負担増が控えていることや、財政悪化への懸念が主な理由だ。減税や給付の財源は、増税回避や財政再建に用いるべきだというわけだ。
首相は「経済を立て直した上で、防衛力や子ども政策について国民に協力してもらう」と強調、増減税は同時実施にならないことから「矛盾しない」と断言した。減税の狙いに関しては、経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで「可処分所得を下支えする」などと繰り返し訴えた。
それでも内閣支持率が20%台に落ち込むのは、国民が減税を次の衆院選に向けて政権浮揚を図る方策とみなしていることも要因だ。首相は「選挙目当て」を否定するが、財政の行く末まで憂慮する国民に対し、首相の答弁は説得力に欠けていると言わざるを得ない。
今国会では、公選法違反事件に関与した法務副大臣や過去の税金滞納を認めた財務副大臣ら自民党出身の3人の政務三役が辞任した。
首相は人選を「手腕、経験、他の候補との比較を踏まえて行った」と釈明した。だが実態は来年秋の自民党総裁選再選の障害となる党内の不満を抑え込むため、派閥推薦や年功序列に重きを置いたはずだ。国民の不信感は、保身を図るかのような首相の姿勢にも根差していると重ねて指摘しておきたい。
国民の疑念をさらに増幅させたのは、自民5派閥がパーティーの収入を政治資金収支報告書に過少記載していたと告発された問題である。
21年までの4年分だけでも計約4千万円に上っている。各派閥は「事務的ミス」として順次報告を訂正しているものの、組織的、継続的な裏金づくりと疑われても仕方ないだろう。
首相は信頼回復のため、党として「どう対応すべきか考えたい」と述べたが、追及をかわす一時しのぎの発言であってはならない。対応策を早急にまとめて明らかにすべきだ。同様の問題は立憲民主党議員の資金管理団体でも発覚しており、与野党で取り組む課題でもある。
内閣支持率の下落原因を聞かれた首相は「一つや二つではないと思う」と分析した。そう認識しているのであれば、国民が抱くさまざまな疑問に国会の場で丁寧に答え、改めるべきは改める謙虚な政権運営に努めなくてはならない。