自民党の最大派閥で巨額の裏金づくりが横行していたならば、政権を担当する資格に大きな疑義が生じる深刻な事態だ。内閣の要である官房長官がそれを認識していたならば、辞任は当然で内閣総辞職に値する。人事刷新というその場しのぎの対応をしても、失墜した政治への信頼は取り戻せまい。
岸田文雄首相は安倍派の政治資金パーティー問題で、国会閉幕後に、政治資金収支報告書に記載せずに販売ノルマを超える売り上げのキックバックを受けたとされる松野博一官房長官や西村康稔経済産業相を更迭する意向を固めた。同派のほかの閣僚2人も交代させる。
党執行部でも、還流の疑いが持たれている萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長を更迭、安倍派の副大臣も代える方向だ。
計り知れない政治不信を招いただけに、結果的に首相の任命責任は極めて重い。法律違反の裏金づくりを容認していたとすれば、松野氏らはそれぞれ議員辞職に相当する。
岸田首相は、支持を受けてきた安倍派を要職から一掃することで、けじめをつける考えだろうが、幕引きは許されない。国民が知りたいのは、一晩で9千万~2億円余を稼ぐパーティーにおけるカネの流れの実態だ。
なぜ収支報告書に記載しなかったのか、キックバックされたカネを何に使ったのか、そしてこうした手口がいつから始まり、常態化したのか。速やかに、かつ詳細に説明しなければならない。
政治資金パーティーを巡る「闇」は深く、底なしの様相を見せる。安倍派では、塩谷立座長を筆頭に派閥運営を主導する5人組ら幹部のほか、橋本聖子元五輪相ら数十人の議員が還流を受けたとされ、最近5年間で5億円程度に上る可能性もあるという。「1強」と呼ばれた憲政史上最長の安倍政権を足元で支えてきた派閥とあって、とりわけ責任は重大だ。
この間の岸田首相の危機感は希薄だった。5派閥の過少記載では「事務的なミス」と軽視、裏金づくりの疑惑が報じられても、ひとごとのようなコメントに終始した。逆風の強さに慌ててパーティー自粛や、岸田派会長の辞任や離脱を打ち出したものの、松野氏をかばい続け、判断の遅さと甘さを露呈した。
松野氏らの対応も不誠実極まりない。報告書不記載の還流の有無は、すぐにでも答えられるはずなのに、「精査中」「捜査中」と一貫して説明を拒んできたからだ。
こうした姿勢の閣僚や党幹部が決める政策を、国民が信用して受け入れると考えていたか。岸田派でも新たなパーティー収入の過少申告の疑いが発覚しており、世論は安倍派に限らず、自民党の構造的な問題と捉えている。本来ならば、政権を野党に引き渡し、「下野」すべき局面だろう。
野党が乱立して政権の「受け皿」となり難いならば、自民党が自浄能力を発揮しなければならない。まずは東京地検の捜査を待たずに、期限を切り、実態を徹底的に調査して、結果を公表する。その上で「裏金の温床」と指摘されてきたパーティーの禁止も含め、政治資金の透明化に向けた抜本的な改革に本気で取り組むことが不可欠だ。
同時に派閥の解体など解党的な出直しに踏み出さなければ、国民の「岸田離れ」「自民離れ」が加速するのは免れない。