政府は、トラブルが相次いだマイナンバーの総点検結果を公表した。精査対象は計約8208万件で、うち他人のマイナンバーをひも付けるミスがあったのは0・01%の8351件。総点検前の先行実施分なども含めると計1万5907件。発生率は低いが、厳格管理が当然の個人情報を扱う国の制度でこのトラブル数は尋常ではない。
マイナカードを使う「マイナ保険証」の登録済みデータを住民基本台帳と突き合わせて不一致だった約139万件については来春まで確認作業が続く。今後も手作業が残る限り、人為的ミスはゼロにはできまい。
その中で岸田文雄首相は、マイナ保険証に一本化するため、現行の健康保険証を来年秋に廃止する従来方針の堅持を明言した。対応が難しい高齢者らのフォローはなお不十分だ。このままでは国民の利便性を高めるためのデジタル化に取り残される人々が出る。あと1年足らずでの保険証廃止はやはり強引ではないか。
河野太郎デジタル相は「日本はゼロリスク神話があったが、そうはならない。ミスは0・01%で極めて少なかった」と指摘。完璧を求めても無理で、マイナ制度はむしろ正確との認識だ。その上で少子高齢化が深刻な日本はミスを補いつつマイナ制度で行政の省力化、効率化、迅速化を進めるのが必然―と河野氏は主張したいのだろう。ここまではまだ理解できる。
だからといって、今の保険証を廃止しなければならないとの結論になぜ直結するのか。マイナ保険証の登録は7100万枚を超えたが、病院での利用率はトラブル続発で低下し、10月は4・49%だった。期限を区切れば一気に進むとの狙いだろうが、この現状は1年足らずで改善できるのか。
政府はデータ照合を厳格化し、将来は自動化したシステムを導入するという。制度安定に手を尽くすのは当然であり、それなりに知恵を絞っていると評価もできる。それでも、介護施設にいる寝たきりの高齢者などマイナカードを作るのが難しい人はいる。マイナ保険証を取得しても、暗証番号が管理できず使えない認知症の人などもいる。このため政府は、暗証番号の設定が不要な「顔認証マイナンバーカード」発行を決めた。
これをマイナ保険証として使う際は、医療機関にある読み取り機で顔認証して本人確認する。しかし現状でも機械の不具合で顔認証できないトラブルが相次ぐ。そもそも寝たきりや、障害がある人々は読み取り機へ近づくのが困難だ。順調に機能するか不安が残る。
次善の策として窓口職員がカードの顔写真を目視して本人確認してもいいという。暗証番号入力が必要な証明書のコンビニ発行、オンラインでの行政手続きなどには対応せず、当面はマイナ保険証にしか使えない。このようなカードなら現行保険証とどこが違うのか。
保険証廃止後も、最大1年間は使用可能にし、マイナ保険証のない人には資格確認書を発行するなど、マイナ保険証への一本化には手間暇、予算がかかる。ならば現行保険証を引き続き使えば、解決は容易なはずだ。もう少し時が流れ、全国民が普通に1台ずつスマホを持つ時代には、マイナ制度は自然に生活基盤となっているだろう。急がずとも、時間が解決するという発想が政府にも必要ではないか。