米大リーグのエンゼルスから、どの球団にも移籍できるフリーエージェント(FA)になっていた大谷翔平選手のドジャース入りが決まった。10年で総額7億ドル(約1015億円)という超高額の複数年契約だ。世界のスポーツ史上最大の契約といわれ、大谷選手は名実ともに「世界一」の野球選手となった。
破格の契約内容に誰もが衝撃を受けた。FAになって以降、総額5億ドルを超す大リーグ最高の契約が予想されていたが、その見込みを大きく上回った。
今秋、故障した右肘の手術を受けリハビリ中だ。来季は投打の二刀流ではなく、打者に専念する。それでも希代のスーパースターの価値は減じず、多くの球団が獲得に動いたことで市場価格がさらに高騰したのだろう。総額ではサッカーのメッシ選手がバルセロナ(スペイン)時代に結んだ契約や、米プロフットボールのスター選手の高額契約をもしのいだという。
スポーツ選手の価値は金銭だけで決まるものではないが、報酬額は選手の評価値を示す。大リーグもビジネスである以上、球団も意味のない投資はしない。ドジャースが巨費を投じるのは野球の力量に加えて、ファンやスポンサーを引きつける大谷選手の総合的な価値に注目してのことだろう。
岩手県出身の純真な野球好きの青年が、高校野球、プロ野球を経て最高峰の舞台で成長を続けた。今季は打って44本塁打、投げては10勝。日本選手初となる本塁打王を獲得し、2度目のリーグ最優秀選手(MVP)に選ばれた。野球選手の枠を飛び越え「世界有数のアスリート」に上り詰めたと言えるだろう。
年俸にすると1年で100億円余。一般人には想像もつかない報酬である。スマートフォンの電卓機能を使って「日給に換算して1日3千万円近くにもなるのか」と、あらためて驚く巨額サラリーが人々の間で話題になっている。日本のプロ野球選手の年俸も上昇しているが、最高でも10億円には達していない。大谷選手が到達した高みに、若い選手や野球少年たちは憧れを募らせ、夢を膨らませるに違いない。野球のファン層拡大にもつながる。
右肘のリハビリを並行しながら臨む来季は、難しいシーズンになるだろう。ワールドシリーズ優勝を狙える強豪ドジャースは、優勝争いの「ヒリヒリした戦い」を求めていた大谷選手の希望にかなう。
だが、いったん不振に陥ると、高額報酬を得ているだけにファンの視線やメディアの論調は一気に厳しくなる。
重圧に耐えて苦悩する姿は大谷選手に似合わない。球団、ファンの期待、メディアの注目を背にしながらも、これまで通り柔らかな笑顔を交え、野球を楽しむ姿を見せ続けてほしい。そのためにもコンディション調整がより重要となる。
移籍先としてドジャース選択は賢明だった。本拠地はロサンゼルスの郊外からダウンタウンに移るだけだ。温暖な気候は故障の治療と再発防止に適する。右肘手術の担当医が球団のチームドクターであることも心強い。
日本から大リーグ進出のパイオニアとなった野茂英雄投手をはじめ、ドジャースでは多くの日本選手が活躍してきた。エンゼルスの赤色から、青色のユニホームに着替える大谷選手にまた新たな歴史を刻んでもらいたい。