部隊を視察した岸田文雄首相(左手前)は訓示で、長射程ミサイルの整備を「速やかに進める」と強調した=11月11日、埼玉県の航空自衛隊入間基地
部隊を視察した岸田文雄首相(左手前)は訓示で、長射程ミサイルの整備を「速やかに進める」と強調した=11月11日、埼玉県の航空自衛隊入間基地

 財源の確保がおぼつかないのに、歳出は大盤振る舞い―。政府が閣議決定した2024年度予算案の姿である。足りない歳入を国債に頼れば、残高が増し、財政はさらに悪化しかねない。金利が上昇し始めており、危うい財政運営に歯止めをかける時だ。

 来年度予算案は一般会計の歳出総額が112兆717億円と、前年度比2・0%減になった。前年度用意した新型コロナウイルス対策や物価高対応のための多額の予備費を削減。防衛費増額に使う「防衛力強化資金」への繰り入れがなかった要因が大きく、歳出総額が前年度を下回るのは12年ぶりという。

 それでも、総額が2年連続で110兆円を超える巨額予算に変わりはない。なお予備費を1兆5千億円計上するなど、歳出抑制が手ぬるいからだ。コロナ禍の沈静化を受け岸田文雄首相は「歳出構造を平時に戻していく」と強調してきたが、及第点には遠い。

 財政の膨張傾向が止まらないのは、歳出見直しが進まない一方で、特定の予算で増額がまかり通っている点が大きい。筆頭は防衛費である。24年度の防衛費は7兆9496億円と過去最大だった前年度から1兆1千億円余り、16・5%の大幅増となった。27年度までの5年間に計43兆円を投じる防衛力抜本強化の2年目として、反撃能力(敵基地攻撃能力)の手段となる国産長射程ミサイルの取得費などが盛り込まれた。

 だが、増額の前提である財源が不透明なままである点を見過ごしてはならない。法人税や所得税などで1兆円強を増税し充てる方針なのに、その開始時期は来年度の税制改正では先送りされた。この状況で歳出増だけ不問というのは、責任ある政策運営と言えまい。

 同じことは拡充する少子化対策にも当てはまる。財源は社会保障の歳出削減と既存予算の活用、支援金制度の創設で賄う計画だが、必要な年3兆円余りが確保できるのは28年度。その一方で来年度からは児童手当の所得制限を撤廃するなど、大盤振る舞いが先行する。

 高齢化で社会保障費の抑制は一層困難になっており、来年度予算案の社会保障費は37兆7193億円と8千億円以上増える。少子化対策の財源確保には危うさがぬぐえず、防衛力強化とともに国債頼みに陥らぬよう国民の監視を強めるべきだ。

 24年度の税収は、定額減税を実施するものの大きく落ち込まず、69兆6080億円を見込んだ。それでも歳入は大幅に足りず、国債を新たに34兆9490億円発行。年度末の国債残高は1105兆円に達する見通しだ。

 これだけでも深刻だが、輪をかけるのが日銀の金融緩和修正に伴う金利上昇である。国債の返済・利払いに回す国債費は来年度に過去最大の27兆90億円を計上した。

 10年にわたる異次元緩和は国による借金の負担を軽くし、財政規律を弛緩(しかん)させ、歳出膨張を許した。金利上昇は長年の甘い歳出への警鐘であり、金融政策とともに財政政策も「出口」へ向かうことが求められる。

 政府は財政健全化のため国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指しており、達成目標の25年度が近づく。

 鍵を握るのは歳出歳入両面の抜本見直しだが、それ以上に大事なのが政治のリーダーシップである点は論をまたない。