無償化する町もあれば、値上げする市もある。最近、自治体によって保護者の負担の差が大きくなっているのが、公立小中学校の学校給食費だ。
先日、島根県川本町が2024年度から無償化する方針を打ち出した。県内では吉賀町が15年度から、鳥取県は20年度以降、智頭、若桜、大山、江府、日野の5町が始めており、全国的にも無償にする自治体が増えている。物価高騰が家計を圧迫する中、子育て支援策として踏み切るケースが多いようだ。
文部科学省によると、給食費はこの20年間で小中学校ともに15%ほどアップ。給食費の月額平均(2021年度)は島根県の公立小学校が4765円、中学校5548円。年間では公立小で約4万9千円、公立中で約5万6千円の負担となる。
無償化の自治体が増える一方で、松江市は2学期から、出雲市が10月から値上げに踏み切った。年間の負担が松江市は7千~8千円、出雲市は6千円程度増える。浜田市も4月、益田市は昨年4月に上げている。
憲法26条2項は「義務教育はこれを無償とする」と定めているが、無償の範囲は授業料に限定されてきた。1954年制定の学校給食法は、食材費は保護者の負担と規定し、給食費を徴収する根拠となっている。
とはいえ、義務教育の現場でここまで物価変動に左右されたり、自治体間で負担に差があったりするのは望ましくない。
こうした背景もあってのことだろう。政府は「次元の異なる少子化対策」の一環として給食費の無償化への検討を始めた。6月に公表した「こども未来戦略方針」に、自治体の実態調査を盛り込み、文科省が2024年夏までに結果を公表する。
無償化実現に向けては恒久的な財源の確保など課題は多い。ただ、少子化対策というより、物価高などの外的要因に左右されず、憲法26条で定められた教育を受ける権利として、安定的な供給体制は早急に保障されるべきだ。コロナ禍の一斉休校で食事を満足に取れない子どもたちが顕在化し、栄養のバランスが取れた給食の重要性に気付かされた今、なおさらだ。
その点で給食の質の維持向上は欠かせない。農薬や食品添加物、遺伝子組み換え食品など、食の安全性が確立しきれていない課題がある中、全国の自治体で導入が進むのが、有機栽培の農作物や添加物不使用の食品を使う「オーガニック給食」だ。
農林水産省の調査では、有機作物を学校給食に用いる市町村は、20年度は123、21年度は137と増加傾向にある。島根県では無償化と同様に吉賀町が先行し、お米は100%地元産の有機米で野菜も旬の有機野菜が中心だ。鳥取県では日南町が来年度から、オーガニック給食の毎日提供を始めるという。
同省は21年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、50年までに有機農業の面積を全耕地の25%に当たる100万ヘクタール(現在は約2万3500ヘクタール)に拡大することを明記した。有機作物の活用先の一つに学校給食が挙げられており、地域の農を支えることにもつながる。
子どもの心身を育み、農や環境、地域の食文化への理解につながる安全安心な給食の提供は大人の責務であり、人づくりの根幹だ。