高台へと歩く親子。政府は「次元の異なる少子化対策」の具体的メニューを網羅した「こども未来戦略」をまとめた(資料)
高台へと歩く親子。政府は「次元の異なる少子化対策」の具体的メニューを網羅した「こども未来戦略」をまとめた(資料)

 児童手当拡充、多子世帯の大学無償化など、岸田文雄首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」の具体的メニューを網羅した「こども未来戦略」がまとまった。その内容は、結婚後の夫婦が「子どもが欲しい」「もう一人欲しい」の希望をかなえる支えにはなるだろう。ただ、日本の少子化の最大要因とされるのは未婚化・晩婚化だ。であれば、結婚したくても踏み切れない若者たちへの後押しが必要だ。「戦略」はそこが弱いと言わざるを得ない。

 少子化対策に即効性がある「カンフル注射」はない。地道に「体質改善」に取り組むほかない。まずは実行し、問題点を検証し、反省すべきはして改善する「PDCAサイクル」をしっかり回していくことが不可欠だ。

 「戦略」は冒頭で「このままでは、50年で人口の3分の1を失う恐れがある」と少子化に強い危機感を表明。その上で「2030年までが少子化トレンドを反転できるラストチャンス」とし、第一に「若者・子育て世代の所得向上」に全力で取り組むと強調している。問題意識は妥当だ。

 今後3年間に実施する「加速化プラン」の具体策はどうか。出産・子育て応援交付金10万円を制度化する。児童手当の所得制限を撤廃し、支給期間を高校生年代まで延長して、第3子以降は月3万円とするなど充実させる。3人以上の多子世帯の大学授業料など高等教育費を無償化する―など結婚後のライフプランを想定した対策が並ぶ。

 一方、結婚をためらう若者たちへの支援はどうか。奨学金返済で苦しまないよう減額返還制度や給付型奨学金の拡大などは盛り込まれた。だが、最重要課題の所得向上については「『成長と分配』『賃金と物価』の二つの好循環実現を目指す」など抽象的スローガンを掲げるにとどまった。

 18~34歳の未婚男女の8割以上が結婚を望むが、30~34歳の非正規労働者の有配偶率は2割にとどまる。未婚・晩婚による少子化進行は、若者の生活に余裕がなく、将来展望を描けないからだ。彼らが希望をかなえるには、雇用と所得が安定し、豊かな家庭生活を送れるようなワークライフバランスを実現する長時間労働解消などが必要だ。

 それには給付や税制優遇は一時しのぎに過ぎまい。働いて得る賃金が上がることこそが解決策の本道だ。それには企業の生産性を上げ、業績を良くすることが欠かせないが、これはもう少子化対策を超え、経済を良くすることにほかならない。「戦略」で具体策を描くのには限界がある。

 とはいえ、手をこまねいてもいられない。加速化プランにはすぐにも実施すべき対策が網羅されており、まずは3年間にしっかり実行したい。ただ、長期に少子高齢化が進行している国でその傾向を反転させることは歴史的に見ても至難だ。現実的には、進行速度を落とすブレーキをかけられるか否かだろう。

 であれば、少子化対策と並行し、人口減少が進んだ超高齢社会でも立ちゆく国のかたちに、日本の経済社会をリフォームしていく取り組みも戦略的に進める必要があろう。デジタルトランスフォーメーション(DX)、人工知能(AI)、ロボット技術なども活用し、少ない働き手、縮小した国内市場でも希望を持てるような社会を若者や子どもたちに引き継ぎたい。