岸田政権は防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」とその運用指針を改定し、輸出の規制を緩和した。
外国企業が開発し、そのライセンス(許可)に基づいて日本企業が製造する武器は、殺傷能力のある完成品もライセンス元の国への輸出を解禁。その第1弾として地対空誘導弾パトリオットの米国への提供を決定した。
戦後、憲法で「平和主義」を掲げた日本は武器輸出を自制してきた。2014年に第2次安倍政権が防衛装備移転三原則を決め、その根幹を転換したが、今回の改定はさらにその規制を大幅に緩和するものだ。輸出した武器が紛争を助長する恐れはないのか。懸念が強まる。
改定では、ライセンス国から第三国への移転に関しては「戦闘が行われている国」は認めないとしている。ただ、米国はウクライナにパトリオットを供与しており、米国の在庫を日本製で補えば、事実上、ウクライナへの間接供与となるのではないか。ウクライナ支援が必要だとしても、「抜け道」のような形で殺傷能力のある武器を輸出する手法には疑問を抱かざるを得ない。
岸田政権は昨年12月に改定した国家安全保障戦略で防衛装備移転三原則の見直しを表明。国家安保戦略は国会の議論を経ずに決定されたが、今回も同様に自民、公明の与党と政府の非公開協議で改定を決めた。
「平和国家」は日本の基礎となる理念だ。1976年に当時の宮沢喜一外相(後の首相)は国会で「わが国は武器の輸出をしてカネを稼ぐほど落ちぶれていない。もう少し高い理想を持った国であり続けるべきだ」と答弁している。その理念を曲げるような決定を非公開協議だけで行うべきではない。国会でしっかりと議論すべきだ。
改定された防衛装備移転三原則は「インド太平洋地域の平和と安定のため、力による一方的な現状変更を抑止」することを目的に、同志国の抑止力を高めることが日本の安全保障にも有効だとしている。海洋進出を続ける中国を念頭に置いたものだろう。
国産装備品の部品のうち、戦闘機のエンジンや主翼など殺傷能力のない部品は、安保面で協力関係にある国に対しては全面的に輸出を解禁。
現行でも国産装備品の輸出を認めている「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の非戦闘の5分野では、自己防衛や掃海の実施に必要な機関砲など殺傷能力のある武器も輸出できるよう緩和した。
ライセンス生産品は米国にだけ部品の輸出を認めていたが、ライセンスを持つ全ての国に完成品の輸出を可能とした。
輸出に当たっては、相手国に適正な管理を求め、厳格に審査するなどの条件を付けている。だが、相手国の対応をどこまで検証できるのか。第三国へ移転されれば、さらに検証は困難になる。
一方、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機など国際共同開発の武器を日本から第三国に輸出することに関しては、公明党が慎重姿勢を示し、今回の改定では見送られた。5分野の拡大に関しても自公が折り合わず、結論は先送りされた。
ただ、次期戦闘機の第三国輸出に関しては、来年2月末までに結論を出すとしている。殺傷兵器そのものである戦闘機の輸出に踏み切るのか。慎重な議論を求めたい。