自民党の最大派閥である安倍派の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、安倍派の枢要な幹部が相次いで東京地検特捜部の事情聴取を受けた。
閣僚や党の要職経験者ばかりで、立件対象にならないとしても政治への信頼を地に落とす深刻な事態だ。にもかかわらず、党総裁である岸田文雄首相は、政治改革のための新組織設置などを指示するだけで、国民の政治不信解消への本気度が伝わってこない。
首相は、このまま政権の座にとどまり続ける資格を有するか真価を問われる局面に置かれていると自覚し、信頼回復に向けた指導力を発揮しなければならない。
安倍派と所属議員側は、2018~22年の5年間に政治資金収支報告書に記載しない形で、パーティー収入から計5億円規模の裏金を捻出した疑いが持たれている。
政治資金規正法違反の容疑で捜査している特捜部は、松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長、世耕弘成前参院幹事長、塩谷立元文部科学相らから任意で事情聴取。さらに萩生田光一前政調会長も聴取されていたことが判明した。
このうち松野氏側には、1千万円超の裏金が還流したとされる。官房長官在任中の記者会見で「派閥で事実確認がなされている最中だ。政府の立場で答えは差し控える」と繰り返したが、辞任後も説明拒否の姿勢に変化はうかがえない。萩生田氏らほかの安倍派幹部も同様で、特捜部が捜査中といっても事件に関与していなければ、堂々と主張すればいい。口をつぐんでいては疑念が深まるばかりだ。
首相は安倍派幹部への聴取が発覚後、経団連の関連会合で「国民から疑念を持たれる事態を招いていることは大変遺憾で、心からおわび申し上げる」と述べた。
会合参加者にパーティー券購入企業の代表者らが含まれている可能性があるが故の発言かもしれない。だが、そうした場で陳謝するなら、同時に国民に対しても誠意を示してもらいたい。その一歩は、自身を含め説明責任を果たすことだ。裏金問題への批判を受け、会長ポストを退いたとはいえ、岸田派でもパーティー収入のずさんな処理が指摘されていることを考えればなおさらだろう。
首相は先の国会閉会に際した会見で「国民の信頼回復へ火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んでいく」と表明した。ただ、その後の対応としては、自民党の地方組織にある青年・女性部局からの意見報告を求めたことや、年明けに政治改革に関する新組織立ち上げを決めた程度だ。捜査の行方を見極める必要はあろうが、党内論議を経て方針を打ち出す構えなら、またぞろお手盛りの改革になる恐れが否定できない。
党内の抵抗があっても、首相のリーダーシップで政治資金の透明化の徹底と再発防止につながる厳罰化に踏み込まない限り、政権への信任は低下する一方だろう。法改正によらずに実行できる方策としては、派閥解消も挙げられよう。
首相は経団連会合で「国民の信頼があっての政治の安定であり、政治の安定あっての政策の推進だ」とも強調した。この観点で言えば、政治の「不安定」を招来したのは岸田自民党であり、結果として政策が推進できないとなれば、政権の座から去るしかない。