岸田文雄首相(自民党総裁)が政権を担って3度目の新年を迎えた。衆院議員の任期は残り2年足らずで、今年中の衆院解散・総選挙もあり得る。与野党は迫る審判に向け、日本の政治のあるべき姿について論議を尽くしてもらいたい。
年明け後の本格論戦の場となる通常国会は1月下旬に開会見込みだ。会期は150日間で、解散の時期によっては、衆院選前で最後の国会になる可能性がある。
この国会で何より優先して議論すべきは、最大震度7を観測した石川県の能登半島地震への対応になる。現段階で政府が、倒壊した建物の下敷きになるなどして安否不明な住民らの捜索、救出に全力を挙げるのは当然だ。避難生活を強いられている被災者支援にも万全を期さなくてはならない。
国会は、そうした政府の取り組みを徹底検証し、足らざる所を補うよう促す必要がある。被災地の復旧、復興対策も審議の重要なテーマになろう。政府は与野党党首会談で受ける提案などを踏まえ、最善の方策を取る姿勢が求められる。
非常災害対策本部の本部長に就いた岸田首相は「私自身が陣頭指揮を執る」と述べた。態勢を構築しても、被災地のニーズに合った迅速かつ有効な支援に結び付かなければ意味がない。
政権の責務は、国民の「命と暮らし」を守ることに尽きる。岸田首相が衆院解散に踏み切った場合、今回の大地震で示される危機対応能力が問われると心すべきだ。
政治への信頼を失墜させた自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件への向き合い方も、岸田政権の命運に関わってくる。安倍派はパーティー収入から6億円規模の裏金を捻出したとされ、東京地検特捜部は政権の枢要なポストにあった安倍派幹部などから事情聴取。通常国会までに、安倍派に加え、二階派の会計責任者らを政治資金規正法違反の疑いで刑事処分する方向だ。共謀したとして議員自身が立件される事態も否定できない。
首相は年頭の記者会見で党内に総裁直属の「政治刷新本部」を設置し、「国民の信頼を回復すべく党の体質刷新の取り組みを進める」と表明した。
そのための最初の一歩は、関係議員が説明責任を果たすよう指導することだが、議員任せの態度に終始している。追及回避を狙った組織立ち上げであってはならない。
捜査を言い訳に実態解明に後ろ向きであれば、自浄能力なしと断ぜざるを得まい。首相は会見で、政治資金の透明化を図るため「必要なら関連法案を提出する」と言及した。だが、制度論の前に、国会議員の政治的、道義的責任を明らかにする質疑に応じるべきだ。
政策面で首相は憲法改正への意欲を強調したが、喫緊の課題ではあるまい。大地震対応などとともに、防衛力強化のための増税や、それと矛盾するかのような所得税などの定額減税の是非に関する再議論が先だろう。
4月には衆院島根1区補選が控える。裏金事件の捜査次第で議員辞職による補選数の拡大も考えられる。9月には、首相が再選を目指すとみられる自民党総裁選が予定されている。
首相がいつまで政権の座にあるか定かではないが、衆院選をはじめとする審判の機会に備え、国民も首相や与野党の主張を吟味するようにしたい。