ウクライナとパレスチナを覆う戦火は、多くの人命を奪いながら越年した。強国のエゴがむき出しになった戦禍が浮き彫りにするのは、私たちが弱肉強食の世界に逆行する瀬戸際に立っているという危うい現実だ。
平和と安定を取り戻すために、2024年は国連改革を軸に国際秩序の再建を始める年にしたい。
ロシアによるウクライナ侵攻は2月でまる2年を迎える。23年6月に始まったウクライナの反転攻勢にロシア軍が抵抗し戦況は膠着(こうちゃく)状態。兵器の主要提供元である米国や、欧州連合(EU)諸国には支援疲れが漂う。
ウクライナ側は、クリミア半島や東部・南部4州からのロシア軍全面撤退を停戦交渉開始の条件としている。ゼレンスキー大統領と軍部の不協和音も伝わる中、ロシア側がこれに応じる可能性は当面ないだろう。
パレスチナ自治区ガザ情勢の見通しも厳しい。23年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエルでの奇襲と人質拉致で始まった戦闘も、一時戦闘休止を挟みつつ4カ月目に入る。
ハマスのテロは絶対に許されないが、イスラエル軍の過剰な攻撃で、ガザ地区側で2万人以上が死亡した。ハマス軍事部門の壊滅は達成しても、病院や学校を標的とする限り「ユダヤ人国家を認めない」とするイデオロギーとしてのハマスは生き残る。その意味でイスラエルが立っているのは、長い戦いの〝入り口〟に過ぎない。
二つの戦争を前に、国際平和と安全維持に責任を負う国連安全保障理事会は、機能不全に陥っている。
ウクライナ問題ではロシアが、パレスチナ問題ではイスラエルの後ろ盾である米国がそれぞれ、拒否権の発動を繰り返した。制裁や武力行使を決定する力すら有する安保理が機能を停止、米ロがお互いの「二重基準」を非難し合うなど、国連自体が世界の分断を加速させる場になった。
国連は25年に創設80年を迎えるが、軍事的強者が弱い隣人を踏みにじる現実を座視するようでは存在意義はない。拒否権行使を一定程度制御し、国際社会の総意が反映できる組織へ変わるべきだ。
「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国からは、「もはや安保理は多極化した世界の実態に即さない」(インド国連大使)と見切りを付ける声すら上がった。インドやブラジル、ドイツと共に改革を訴えてきた日本にも関与の責務がある。
24年は「選挙イヤー」だ。1月13日の台湾総統選では、与党民進党候補の頼清徳副総統を野党国民党候補の侯友宜・新北市長が追う。頼氏勝利の場合は戦争の危険が高まると中国が宣伝する中、選択が注目される。
ロシアでは3月に大統領選挙が行われるが、政敵を完全排除したプーチン大統領の再選が確実で、内外政策に大きな変更はないだろう。
最注目は11月に予定される米国の大統領選挙。現職のバイデン大統領(民主党)は高齢問題から低支持率に苦しみ、対抗馬は、共和党内で圧倒的人気を誇るトランプ前大統領が最有力視される。各種世論調査は、両者対決でトランプ氏の勝利を予測する。
トランプ氏が返り咲けば、1期目にも増して極端な米国第一主義の外交政策へかじを切るのは確実で、世界情勢は一気に流動化しかねない。