子どもの就職活動に関して理解を深めてもらうための「保護者向け就活セミナー」が12月28日、松江市学園南1丁目のくにびきメッセ小ホールで開催されました。UターンやIターンなどを経て島根県内の企業に就職した4人の若手社員・職員が、県内就職した理由や地元就職のメリット、保護者との関係について語りました。

左から入江拓弥さん、加藤楓華さん、梅山茜さん、藤田圭悟さん

藤田圭悟 松江市出身。京都府内の大学を卒業してUターンし、2023年4月、地元企業や創業希望者を支援する島根県信用保証協会に就職した。お客さまの財務状況確認が主な業務。
入江拓弥 松江市出身。大阪府内の大学を卒業してUターンし、2019年4月、不動産業の株式会社アスタスに入った。賃貸仲介や物件管理を手掛け、現在は松江乃木店の店長代理。

梅山 茜 埼玉県出身。首都圏の大学を卒業してIターンし、2022年4月、公共交通や地域活性化に関するコンサルティング事業を展開する株式会社バイタルリードに入社した。交通計画コンサルタント業務に従事している。

加藤楓華  大田市出身。地元の高校を卒業し、1907(明治40)年創業の若女食品株式会社に入社。同社が製造し、全国展開している水産練り製品や冷凍食品のうち、おでんや天ぷらの具材を袋に入れる業務に従事している。

 

現在の勤務先に就職を決めた理由

藤田さん 「地域を支えたい」
 松江市出身で、高校時代には野球部に所属して甲子園に出場し、地元の皆さまの応援がすごく力になりました。それもあって島根のためになることをしたいと思って県内就職を考えました。もともと公務員志望でしたが、協会でインターンシップを行った際、先輩職員が島根をよりよくしようと働いている姿を見て、協会で働きたいと感じました。

 

加藤さん 「食の安心を支えるやりがい」
 高校で学んだことを生かすため、食に関わる仕事に就きたいと思いました。企業説明会で会社の雰囲気を知り、興味がわきました。見学でも社員の皆さんが優しく接してくれたし、楽しそうに仕事している感じが伝わってきて、入社を決めました。

梅山さん 「地域創生とまちづくりに関わりたい」

入江さん 「島根の皆さんの生活を豊かに」

 

島根県内に就職してよかったこと

梅山さん 「夕日や星空がきれいな島根が好きになった」
 島根を好きになったのは、空が広いと感じたからです。会社から疲れて帰ってきても、空に埼玉では見たことがないような量の星が見えます。そんな日常のちょっとした瞬間で気持ちを切り替えることができます。

 

 島根にIターンし、知り合いもまったくいない状態でしたが、職場の皆さんが温かく接してくれて、なんでも気軽に相談ができる環境です。出雲市にはお店も多くて生活面で不便を感じることはありません。楽しく仕事できています。

入江さん 「友人や家族と会いやすい」
 家族はもちろん、友人も割と県内で就職しています。月に何回か、実家に行って仕事やプライベートの話をしますし、同級生とは仕事の悩みなどを語り合い、ストレス解消につながっています。島根にUターンしたいと思ったのも、満員電車に乗って通勤するイメージができなかったからです。運転が好きなので、自動車通勤を苦に感じたことはありません。

藤田さん 「お客さまと地元トークで盛り上がれる」

加藤さん 「お世話になった町に貢献できる」
 

就職活動で困ったこと、大変だったこと

入江さん 「大阪と島根の行き来が大変」
 島根へのUターン就職に絞って就職活動していました。就活当時、まだオンラインの説明会や面接がなかったため、よく大阪と島根を往復していました。行き来の交通費は親が負担してくれたので感謝しています。企業説明会などの情報はインターネットで入手していました。参加した合同企業説明会でアスタスを知り、一目ぼれして入社を決めました。

 

藤田さん 「早めの動き出しが肝心」
 就職活動を始めたのが3回生の1月くらいでした。早い学生は夏ごろのインターンシップに参加していますが、自分は参加しませんでした。参加していれば、いろいろな業種を知ることができたと思います。

 公務員志望だったので視野が狭くなってしまいました。動いていればいろいろな仕事があることに気づくことができたでしょうし、いろいろな人に会うことは就活に関係なく自分の経験につながるので、もっと活動すべきでした。

梅山さん 「インターンシップや説明会参加で業界・業種を絞る」

加藤さん 「自己分析に苦労」
 

印象に残っている保護者の声でうれしかったこと、イラっとしたこと

加藤さん 「悩んでいたとき、話をちゃんと聞いてくれた」
 高校を卒業したら就職すると決めていましたが、3年生になって専門学校への進学も含めて悩んでいた時期がありました。母に相談したら、「自分のやりたいことをした方がいい」と言われて、最終的に就職することを決断しました。

 

 母の声掛けがあってこそでした。ただ、就職を決めた後、母から「専門学校に行ったら?」と言われて、ちょっといらっとしました。今は実家から通勤していて、満足しています。

藤田さん 「地元企業の情報を教えてくれて感謝」
 公務員一本に絞っている中で、もう少し民間企業を受けたほうがいいんじゃないかとアドバイスしてくれたことが、視野が広がるきっかけになりました。民間企業の情報を提供しくれて、自分でも探すようになって、協会と巡り合いました。

梅山さん 「話を聞いてくれて背中を押してくれた」
 バイタルリードの書類選考に合格し、面接に行くタイミングで、島根での就職を考えていることを親に打ち明けました。何を言っているんだという感じでびっくりしていました。

 大学のゼミの教授に相談しながら就職先を選んでいたので、両親にはほぼ相談していませんでした。自分だけでどんどん決めていった点は少し反省しています。ただ、私が決めたことに対して両親が不安そうな表情をしていることにこちらもちょっとイラっとしてしまいました。

 今思い返すと、新生活のタイミングで一人暮らしが始まることを心配してくれていたと思います。対話って本当に大切だと感じています。

入江さん 「島根に帰ってきてくれてうれしいと言われてうれしかった」
 島根に戻るという大学進学時の父との約束を守りました。母からUターンを喜んでいるという話を聞いて、私もうれしくなりました。就活中は両親に相談しながら進めました。自分がしたいようにやりなさいと背中を押してくれて、自分らしい就活ができたと大満足しています。いらっとしたことはありませんでした。
 

就活を控える学生やその保護者へのメッセージ

加藤さん 自分が何をやりたいかをしっかりと考えるとともに、自分の長所と短所を理解し、それを生かせる仕事を見つけてほしいです。

藤田さん 就職先を探す生徒・学生は、自分で物事を決めることができるとはいえ、まだまだ子どもで、分からないことも多いです。人生の大先輩である親に相談することはきっと力になると思います。保護者の皆さまは、子どもに「こうなってほしい」という熱い思いをもってサポートしてください。

 

梅山さん 就活に直面する子どもの性格は保護者の皆さんが一番理解していると思います。自己分析の部分でアドバイスをしてあげてほしいです。私は親とほとんど対話せずに就職活動をすすめてしまいましたが、しっかりとコミュニケーションをとりながら進めてほしいと思います。

入江さん 給与や休日日数を基に就職先を絞るのが一般的ですが、働きやすい環境、自分らしく働くことができる職場であるということの方が大事だと思います。
 職場にいる時間の方が家族と過ごす時間より長いので、働きやすさや自分らしくいられるということを重視して就活を進めてください。保護者の皆さんは普段の会話の中で自然に就活の情報を聞きながら、コミュニケーションをとってください。

本人の意思尊重しつつ、広い視野でアドバイスを/マイナビ・松田信秀さん

 就職氷河期と言われた20年前やリーマンショックが起きた10年前に比べると、企業側に人手不足感を背景に有効求人倍率は2023年度比0.13ポイント増の1.71倍になり、コロナ禍前の水準に戻りつつあります。高卒は3.52倍の高水準で、求人数が伸びる一方、求職者数が減少しているのが原因です。

 

 求職者有利の状況ですが、採用されやすくなっているわけではありません。企業側は人材を見極め、厳選して採用しています。現在の就活で進んでいるのは早期化と長期化です。

 インターンシップを中心にした就職活動が主流になって、就活に関する広報が解禁される3年生の3月1日現在で内々定を保有する学生は18.1%と、早期に内々定を得る学生が増えています。その後、採用選考があり、最終的に学生が就職先を決めるのは6月以降になります。

 就活生へのアンケートでは、約8割が保護者に就活について相談し、影響を受けたという回答は約7割に上りました。そのうち、7割が地元就職を意識するようになったと回答していて、保護者のかかわり方が地元就職に大きく影響することが分かっています。保護者としてのかかわり方としてのポイントをご紹介します。

 本人の意思を尊重してあげることが大切です。企業を名指しして選択肢を提示するのではなく、自己分析を経て学生にやりたいことへの考えが芽生える中で、仕事の向き不向き、企業の見つけ方をアドバイスしてください。
 
 大手がいい企業だとは限りません。知名度はなくても、社員を大切にしていたり、海外展開に積極的だったり、社会を支える技術を持っている企業があります。そのような視点を大切に、「いい会社」を見つめなおしてください。

 学生は不合格の通知を受け取ると落ち込みます。そんな時は慰め、向き合う時間をとってください。不合格通知は受験した企業と縁がなかっただけで、学生に能力がなかったということではありません。うまく助言をしながら、応援してあげてください。