国際自然保護連合(IUCN)が昨年12月、絶滅の危険がある野生生物を掲載する「レッドリスト」を改定し、東アジア近海に生息するサワラを準絶滅危惧種とした。中国や韓国など沿岸各国の乱獲や水質悪化が一因とみられる。水産庁も資源管理の強化を検討しており、全国有数の水揚げがある山陰両県の漁業関係者が規制の行方に気をもんでいる。 (中村和磨)
サバ科のサワラは、東シナ海や北海道以南の日本海と、瀬戸内海や高知県沿岸の太平洋を回遊する二つの集団がある。温暖化で2000年頃から日本海沿岸の定置網で漁獲量が増え、山陰両県は京都や北陸などに次ぐ有力な産地に。漁期の9月から翌年3月ごろまで漁業者の貴重な収入源になっている。
美保湾近辺のカタクチイワシを食べて育ち、秋頃に脂が乗ったものは特に重宝され、鳥取県は淀江(米子市)で水揚げされたサワラを「Premium鰆(プレミアムサワラ)」として売り出し中だ。
こうした中、IUCNが昨年12月、乱獲や水質汚濁を理由にサワラを準絶滅危惧種に指定。中韓を名指ししてはいないが、一帯で若い個体を捕り過ぎる「成長乱獲」の状態とみている。
実際、2021年の日本の漁獲量約1万2千トンに対し、中国36万5千トン、韓国は3万トンで、資源の減少に関係していると指摘する専門家は少なくない。
IUCNのリスト入りに対し、JF鳥取漁政指導部の前嶋宏部長は「底生魚のように漁獲量をコントロールすることが(簡単に)できない魚種だ。捕れる魚を捕るしかない」と話す。
ただでさえ、海水温の上昇で漁場が山陰よりさらに北へ移動しているとの観測がある。鳥取が19年に過去最高の912トン、島根もほぼ同量の909トンを水揚げしたが、22年は鳥取が72%減の253トン、島根も37%減の574トンに落ちた。
資源の減少が世界的機関から指摘された今、両県の漁業関係者は、水産庁がサワラを漁獲可能量(TAC)制度の対象とするかどうかに注目している。
同庁の議論に参画している出雲地区定置網組合連合会の西村昭充会長は「人手不足の中で、(一定量を超えた)魚を逃がさないといけないTAC制度導入は死活問題」と先行きを懸念。鳥取県栽培漁業センター増殖推進室の尾田昌紀室長は「日本単独での資源管理で効果があるかどうかは疑問だ」とし、日本の漁業者だけが影響を被る可能性を指摘した。
漁獲可能量(TAC)制度
魚種別に1年間に漁獲できる量を定める資源管理の手法で水産庁が1996年に導入した。サバ類、アジ、サンマやズワイガニなど国民の生活上重要な魚種や、クロマグロなど国際的な管理が行われている魚種に適用されている。同庁は今後、対象魚種を拡大する方向で議論を進めている。