朝、搾ったばかりの牛乳が排水路に次々と流されていく。生産過剰となり、横流しを防ぐため食紅で赤く染められて―。

 北海道のサロベツ原野で湿原を牧草地に変える研究をしていた当時20代の北野雅治(68)は、その光景に胸を突かれる。

 国の農政を信じ、借金を背負って入植したのに牛乳は売れず、捨てるしかない。「農業をしたことのない官僚や僕ら研究者の支援だけでは、不十分ではないだろうか」

 九州大で農業気象学を専攻。農業の現場と懸け離れた研究が嫌になり、...