
人生にはそれぞれの舞台がある。一人一人が物語の主役で、その舞台は時に喜びにあふれ、時に挫折が待っている。喜びに満ちた瞬間は輝かしいハイライトに、挫折に直面すれば自らの強さを示せるチャンスとなる。新企画「STAGE~わたしの現在地~」は道を極めたベテラン、脂が乗った中堅、将来性豊かな若手など旬の人をロングインタビュー。人生の転機や影響を受けた人物、言葉など生きる上で大切にしている軸に迫る。

1970年代に米・ニューヨークで生まれた文化「HIPHOP(ヒップホップ)」。半世紀がたち、世界の音楽シーンで主流となっているカルチャーが日本に根付きつつある中、個性的なワードセンスと豊かな音楽性を持つアーティストが異彩を放っている。
その男の名は、SKRYU(スクリュー)(27)。島根県安来市出身、職業はラッパー。友人の名のイニシャルを並べ、芸名にした。10~20代を中心に注目を集める新鋭が人生の転機となった挫折や、未来への展望を語った。(interviewer・吉田真人)
HIPHOPは優しい文化
2月上旬、ライブスペース「Spotify O-EAST」(東京)のステージ上で、スタイリッシュな服を身にまとうラッパーが、マイク一本で1300人の観客を沸かせた。ライブチケットはあっという間に完売する注目ぶり。スポットライトを浴びる男は、より一層輝いて見えた。
「時代が来たな、と思いました」
2月下旬、撮影で帰省したSKRYUは、銀行員時代に身につけた腰の低さと対照的な強い言葉で自信を口にした。
安来市内の小、中学校を卒業後、松江工業高校に進んだ。国家資格「宅地建物取引士」(宅建)の試験に当時、島根県内の高校生で唯一合格したのは語り草だ。島根県知事と意見交換するフォーラムにも参加し、愛媛大在学中に島根への若者定住策を探るほど地元愛があふれる。
時に下ネタを交えてユーモラスにRAPしたり、地元を飛び出して夢をつかむ思いを歌ったりする幅の広さ。人をディスらず(さげすまず)、巧みに比喩を駆使して言葉を操るスタイルは現代の若者の心に刺さる。

決して順風満帆な歩みではなかった。HIPHOPと出合い、ラッパーとして生きていきたいと思いながらも、挫折して一度は地元に戻り、銀行員として生活した。
当時は遠回りのように思えたことも、自身の覚悟を固める大切な時間になった。...