出雲西部を古墳時代後期後半(6世紀末)に支配した大首長墓の上塩冶築山古墳(出雲市上塩冶町)で見つかった大刀(たち)の鞘(さや)が、赤く塗られていたことが分かった。当時の鞘としては全国初の事例で、出雲市が26日に発表した。同古墳に葬られた出雲の豪族が、大王に仕えるなど大和でも非常に高い地位を占めていた姿を伝えるとともに、当時の日本に鮮やかな染色技術があった物証となる。
赤鞘の大刀は「金銀装捩(きんぎんそうねじり)環頭大刀(かんとうたち)」で、長さは推定1メートル23センチ。儀式用に使われたものとされる。1887(明治20)年に出土し、出雲弥生の森博物館(同市大津町)が所蔵する。2022年から奈良県立橿原考古学研究所(奈良県橿原市)と共同で実施したエックス線や顕微鏡を使った科学調査により、2月中旬に判明した。
調査の結果、大刀は刀身の周囲を覆う木製の鞘に二つの布を巻いた上に、水銀朱が層をなして塗られていた。赤い水銀朱を漆で固めたと考えられる。大刀が制作された当初、金色と銀色の輝きに鮮やかな赤色が際だった。鞘木には所々に金銅板の飾りがつけられ、大和の王族らから最高級品として下賜されたとみられる。
古墳時代の大刀は黒鞘が大半で、上塩冶築山古墳の別の大刀を含めて100件以上の発見例がある。鞘は腐食して残らないことが多いが、今回は土砂や雨水の影響が少なく保存状態が良かった。
上塩冶築山古墳の石室内には大小二つの石棺がある。埋葬品や規模などから大石棺は西部出雲の農地開発や水利整備などを指揮した豪族が、小石棺には大和で大王や王族に長く仕えた後、豪華な品々を携えて出雲に帰郷した人物が埋葬されたとみられる。赤鞘の大刀は、特別に作られた馬具セットなどと一緒に小石棺から出土した。
出雲弥生の森博物館の坂本豊治学芸員(48)は「当時の最高の技術を結集して作られた貴重な大刀と判明した。大きな発見だ」と調査成果を挙げた。
大刀は出雲弥生の森博物館で5月20日まで公開する。入場無料。開館時間は午前9時~午後5時。火曜日休館。
(黒沢悠太)
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